和歌と俳句

河東碧梧桐

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ぎいと鳴る三つの添水の遅速かな

淋し寒し出羽の清水後の月

水菊の花や慈覚の露の降る

飲みつぎて倒れず戻る十三夜

菌干す下に南山と菊を見る

菊の日を雪に忘れず温泉となりぬ

葉芋高き宿にとまるや晴三日

果知らず記のあとを来ぬ秋の風

虫干の寺に掃苔の供養かな

貝堀りの戻る濡身や三日の月

糧を載せてひそかなる舟や三日の月

や人住まはせし荒蕪の地

草刈れば木槿花さく草場かな

小藩分立由利一郡の案山子かな

待つ人に裾野にあへり夕蜻蛉

雨に出しが行手の晴れて稲の花

民の訴訟届かぬを去ぬ燕かな

足下にヒヨコ来鳴くや霧の中

神業の晴れずの霧や山の湖

雲霧や風は神よばひしてや鳴る

葉白く変る草あり百舌鳥の贄

宿乞ひし寺や芭蕉に目覚めけり

領境牧場も置かず花野かな

露に来て絵天井見る小寺かな

魔がさすといふ野日高しちゝろ虫

鳴くや庵の樹と見ゆ寺の杉

四方に高し渋とる家の空

山入口朴の葉風や渡り鳥

啄木鳥や行者の道の岩伝ひ

寺の床人の踏むよに添水

温泉の里の捨湯も落て添水かな

山中に句境開けて高し

馬市に祭控へて残暑かな

寺のある川隈銀杏黄ばみ見ゆ

藁家なるジヨンバの砧また聞かん

啄木鳥や山下り勝の庵の主

見えぬ高根そなたぞと思ふ秋の雲

隔て住む心言ひやりぬ秋の雲

裸湯の人猿が見る秋晴れ

ことし掻けば枯るる漆や初嵐

牧原の隅通ひ路や拾ひ

海を隔てゝ見し方に来ぬ花芒

尾花沢沢潟沢の後の名か

俳諧の功徳も一分寺の秋

遽か雨も冬の近さや西風も

三日泊りせしを上るや秋の空

檜山と峙して満山紅葉かな

鍬形の流れに星座紅葉かな

鳥海を肩ぬぎし雲や渡り鳥

境木の築地になりぬ末枯れて