和歌と俳句

案山子 かかし

をかしうに出来てかゞしの哀也 子規

世の中につれぬ案山子の弓矢哉 子規

君が代は案山子に残る弓矢哉 子規

案山子にも目鼻ありける浮世哉 子規

菅笠のくさりて落ちしかゞし哉 子規

笠とれたあとはものうき案山子哉 子規

山畑は笠に雲おく案山子哉 子規

向きあふて何を二つの案山子哉 子規

こしらへて案山子負ひ行く山路哉 子規

兼平の塚を案山子の矢先かな 子規

稲刈りてあないたはしの案山子かも 漱石

案山子にも劣りし人の行へかな 子規

無性なる案山子朽ちけり立ちながら 漱石

盗んだる案山子の笠に雨急なり 虚子

案山子ばかり道とふべくもあらぬかな 虚子

其許は案山子に似たる和尚かな 漱石

某は案山子にて候雀どの 漱石

ものいはぬ案山子に鳥の近寄らず 漱石

我笠と我蓑を着せて案山子かな 碧梧桐

豊年の稲に全き案山子かな 虚子

小藩分立由利一郡の案山子かな 碧梧桐

骨許りになりて案山子の浮世かな 漱石

病んで来り病んで去る吾に案山子哉 漱石

谷底へ案山子を飛ばす嵐かな 鬼城

案山子たつれば群雀空にしづまらず 蛇笏

抱き来て如何に備へん案山子哉 泊雲

紐赤き妹が笠きて案山子かな 淡路女

破れ案山子稲にうつむき倒れ居り 石鼎

つくり終へて門川越ゆるかかしかな 蛇笏

かかし傘の月夜のかげや稲の上 蛇笏

笠かげに頤見ゆる案山子かな 石鼎

かつぎゆく案山子の眉目ありにけり 禅寺洞

両手伸べてみなみな今朝の案山子かな 水巴

たそがれて人ごゑを聞く案山子かな 鷹女

山の家見えて案山子の日和哉 みどり女

案山子翁あち見こち見や芋嵐 青畝

夕空のなごみわたれる案山子かな 風生

露けしとあらぬ矢向や案山子翁 青畝