夕陽に馬洗ひけり秋の海
月の出や皆首立てて小田の雁
籠あけて雑魚にまじりし鱸哉
蜩や夕日の里は見えながら
蜩や夕日の坐敷十の影
秋の蠅叩かれやすく也にけり
秋の蠅二尺のうちを立ち去らず
暁や厨子を飛び出るきりぎりす
夜をこめて麦つく音やきりぎりす
馬ひとり木槿にそふて曲りけり
大柳散りつくすとも見えざりき
古寺に灯のともりたる紅葉哉
栗焼てしづかに話す夕哉
野社に子供のたえぬ榎実哉
蕣の入谷豆腐の根岸哉
蕣や君いかめしき文学士
白萩のしきりに露をこぼしけり
萩の花くねるとなくてうねりけり
鶏頭や賤が伏家の唐錦
月落て江村蘆の花白し
白水の行へや蓼の花盛り
淋しさを猶も紫苑ののびるなり
南山にもたれて咲くや菊の花
菊の垣犬くぐりだけ折れにけり
旭に向くや大輪の菊露ながら
隣からともしのうつるばせを哉
芭蕉破れて書読む君の声近し
蓮の実のこぼれ尽して何もなし
稲の穂の伏し重なりし夕日哉
茸狩女と知れし木玉哉
獣の鼾聞ゆる朝寒み
何笑ふ声ぞ夜長の台所
馬も居らず駕にもあはず秋の暮
月ながら暮れ行く秋ぞうとましき
乗懸に九月尽きたり宇都の山
秋晴れて塔にはさはるものもなし
一日の秋にぎやかに祭りかな
松一木根岸の秋の姿かな
舟に寐て我にふりかかる花火哉
草市のあとや麻木に露の玉
向きあふて何を二つの案山子哉
秋はまた春の残りの三阿弥陀
新酒売る家は小菊の莟かな
砧打てばほろほろと星のこぼれける
鯛もなし柚味噌淋しき膳の上
稲妻に金屏たたむ夕かな
名月や人うづくまる石の上