名月やたがみにせまる旅心 去来
長崎の秋や是より江の月夜 支考
一はやみ二は月影の鳥井かな 支考
茂吉
長崎の みなとの色に 見入るとき 遙けくも吾は 来りけるかも
茂吉
とほく来て ひとり寂しむに 長崎の 山のたかむらに 日はあたり居り
茂吉
長崎の 石だたみ道 いつしかも 日のじろ強く 夏さりにけり
茂吉
すぢ向ひの 家に大工の 夜為事の 長崎訛 きくはさびしも
茂吉
かけまくも あやにかしこし 年古れる 長崎のうみに 御艦はてたまふ
茂吉
長崎は 石だたみ道 ヴェネチアの 古りにし小路の ごととこそ聞け
茂吉
長崎の しづかなるみ寺に 我ぞ来し 蟇が鳴けるかな 外の池にて
茂吉
長崎の 麥の秋なる くもり日に われひとりこそ こころ安けれ
茂吉
長崎に 来りて四年の 夏ふけむ 白さるすべり 咲くは未か
茂吉
公園の 石の階より 長崎の 街を見にけり さるすべりのはな
茂吉
四年経て 来し長崎の あさあけに 御堂の鐘の 鳴りひびくおと
マリア観音面輪愁ひて枇杷青し 秋櫻子
古しもの光放てり薔薇咲く日 秋櫻子
日傘さす版画風景薔薇など咲き 風生
港は春鏡はうつすおなじ景 青邨
冬菊やイエズスさまに屋根漏る日 秋櫻子
墓通ひばかり長崎菊提げて 静塔
主の前の日焼童に聖寵あれ 誓子
旅びとや夏ゆふぐれの主に見ゆ 誓子
秋の暮使徒虐殺の図にまみゆ 誓子
枯れし苑磔刑の釘錆流す 誓子
午後の日の暈に僧院は罌粟咲けり 秋櫻子
薔薇喰ふ虫聖母見たまふ高きより 秋櫻子
磔像の全身春の光あり 青畝
萌えはしる蔦御手ひろげたまふ主に 青畝
鎧戸ひらく青きあぢさゐ青き枇杷 多佳子
聖寵を垂るるがごとく春の磴 風生
冬薔薇や秘めてをがみし観世音 秋櫻子
奥まる扉飛雪いよいよ司祭館 不死男
聖水をつまみ冷たき旅の指 不死男
薔薇咲けり霜に明けゆく司祭館 秋櫻子
大霜の日ぞ絵硝子を染めにける 秋櫻子