和歌と俳句

種田山頭火

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によきによき土筆がなんぼうでもある

つかれて街からもどるそらまめの花

穴から草の芽の空

一人が一人を見送るバスのほこり

やうやくたづねあてた家で牡丹の芽

まつたく春風のまんなか

干しものすぐ干せた木の芽草の芽

けふはあんたがくるといふ菜の花活けて

菜の花を水仙に活けかへて待つ

酔ひしれた眼にもてふてふ

かすかに山が見える春の山

白木蓮があざやかな夕空

芽ぶく梢のうごいてゐる

このさみしさは蘭の花

酔ひたい酒で、酔へない私で、落椿

やりきれない草の芽ぶいてゐる

出てあるいてもぺんぺん草

自分の手で春空の屋根を葺く

ひとりがよろしい雑草の花

摘んできて名は知らぬ花をみほとけに

なんとわるいみちのおぼろ月

しだれざくらがひつそりとお寺である

やたらに咲いててふてふにてふてふ

雑草にうづもれてひとつやのひとり

遠く花見のさわぎを聞いてゐる

おばあさんは草とるだけの地べたをはうて

花が咲いたといふ腹が空つてゐる

花見のうたもきこえなくなりのうた

借せといふ貸さぬといふ落椿

夫婦でを掘る夫婦

小鳥よ啼くなよが散る

さくらまつさかりのひとりで寝てゐる

さくらちるさくらちるばかり

街へ春風の荷物がおもい

鴉が啼いて椿が赤くて

あるきまはれば木の芽のひかり

よいお天気の葱坊主

筍を掘るひそかな

街の雑音のそらまめの花

梨の花の明けてくる

咲いてゐる白げんげも摘んだこともあつたが

をつみ蕗を煮てけさは

麦笛ふく子もほがらかな里

山へのぼれば山すみれ藪をあるけば藪柑子

によきによきぜんまいのひあたりよろし

山かげ、しめやかなるかな蘭の花

椿ぽとりとゆれてゐる

春ふかい石に字がある南無阿弥陀仏

も安いといひつつ掘つてゐる

こころ澄めばなく