菜の花や夕映えの顔物を言ふ 草田男
菜の花の中に大きな道のあり 青邨
菜の花や名古屋の城のよく見ゆる 花蓑
墓もうで花菜をゆけば夢のごとし 林火
おもひでは菜の花のなつかしさ供へる 山頭火
いつも空家のこぼれ菜の花 山頭火
けふはあんたがくるといふ菜の花活けて 山頭火
何もかも過去となつてしまつた菜の花ざかり 山頭火
菜の花よかくれんぼしたこともあつたよ 山頭火
本を読む菜の花明り本にあり 青邨
まがれば菜の花ひよいとバスに乗つて 山頭火
古利根や洲毎洲毎の花菜畑 鳳作
菜の花や遠くて高き寺の屋根 立子
吾子の耳花菜の風にやはらかし 鴻村
利根明り菜の花明り窓を過ぐ 梵
菜の花や川にみちきし潮の色 占魚
菜の花や夜は家々に炉火燃ゆる 蕪城
菜の花や老いてはならぬ膝頭 耕衣
菜の花や旅路に古りし紺絣 欣一
菜の花や薪買ひ舟の上り来る 占魚
遠き花菜暮るればちかき花菜浮ぶ 林火
雨の花菜寝がへりしてもつめたしや 林火
菜の花に裏戸はいつも明けはなたれ 信子
夕花菜帰漁の唄のはずみ来よ 亞浪
菜の花は濃く土佐人の血は熱く たかし
菜の花にばけつ叩いて子の合図 汀女
菜の花といふ平凡を愛しけり 風生
菜の花の黄のひろごるにまかせけり 万太郎
捨菜の花墓群見ゆるばかりなり 波郷
菜の花やこの身このまま老ゆるべく 鷹女
菜の花の一劃一線水田満つ 秋櫻子
息せるや菜の花明り片頬に 三鬼
青麦に菜の花の黄の滲み出づ 風生
光堂出るや花菜を曲げる風 不死男
黒牛が駅に顔入れ菜の花嗅ぐ 楸邨
体内の菜の花あかり野良着きて 静塔
菜の花や鵜の加はりし沖津岩 秋櫻子
菜の花や雲はしづかに死火山に 汀女
母と行く一筋道の花菜かな 汀女
菜畑の黄に染まらんと浪がしら 鷹女
花菜より花菜へ闇の闇ぐるま 鷹女
菜を過ぎて過去の黄どつと溢れたり 楸邨
菜の花に疲れてをればみな昔 楸邨
花菜の辺水ちかづけて紀の川は 林火