和歌と俳句

種田山頭火

前のページ< >次のページ

いつまでも生きることのホヤをみがくこと

ひとりをればのみちつづいてくる

草の青さできりぎりすもう生れてゐたか

胡瓜植ゑるより胡瓜の虫が暑い太陽

風ふくゆふべのたどんで飯たく

道がひろくて山のみどりへまつすぐ

けふ播いた苗代へあかるい灯

この笛、おかしいかさみしいか、また吹く

明けてくる空へ燃やす

とほく朝の郭公がなく待つものがある

柿の梢のいつか芽ぶいて若葉して窓ちかく

ひつそりとおちついて蠅がいつぴき

焼かれる虫の音たてていさぎよく

寝床までまともにうらから夕日

青葉からまともな陽となつて青葉へ

これは母子草、父子草もあるだらう

ふくれて餅のあたたかさを味ふ

麦畑へだててとんとん機音は村一番の金持で

あさのみちの、落ちてゐる梅の青い実

あほげば青梅、ちよいともぐ

病めば考へなほすことが、風鈴のしきりに鳴る

をさないふたりで、摘みきれない花で、なかよく

ほんにしづかな草の生えては咲く

ひらくとする花がのぞいた草の中から

芽ぶいて若葉して蓑虫は動かない

いちはやく石垣のは咲いた校長さんのお宅

声をそろへて雨がほしい青蛙はうたふ

打つ手を感じ逃げてゆくの、寝苦しい

灯火、虫はからだをぶつつける

生えて伸びて咲いてゐる幸福

うちの藪よその藪みんなうごいてゆふべ

空は初夏の、直線が直角にあつまつて変電所

閉めて一人の障子を虫がきてたたく

影もはつきりと若葉

ほろりとぬけた歯は雑草へ

たづねあてたがやつぱりお留守で桐の花

きんぽうげも実となり薬は飲みつづけてゐる

くもりおもくてふらないでくろいてふてふ

この児ひとりここでクローバーを摘んでゐる

摘めば四ツ葉ぢやなかつたですかお嬢さん

誰もたづねて来ない若葉が虫に喰はれてゐるぞ

ひよいと穴から、とかげかよ

雑草が咲いて実つて窓の春は逝く

ぬむれない私とはいれない虫と夜がながいかな

夜ふけてきた虫で、いそいで逃げる虫で