和歌と俳句

種田山頭火

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ひとりひつそり雑草の中

雨の、風の、巣を持つ雲雀よ、暮れてもうたふか

宵月のあかり、白いのはやつぱり花だつた

よい雨のよい水音が草だらけ

活けられて開く花でかきつばた

金魚売る声も暑うなつたアスフアルト

いやな薬も飲んではゐるが初夏の微風

なんと若葉のあざやかな、もう郵便がくる日かげ

若葉めざましい枯枝をひらふ

郵便もきてしまへば長い日かげ

窓へ糸瓜の蔓をみちびく

麦刈ればそこには豆が芽ぶいてゐる

これでも虫であつたか動いてゐる

風の夜の虫がきて逃げない

風鈴鳴ればたんぽぽ散ればとんぼ通りぬける

触れると死んだまねして虫のいのち

蜘蛛はほしいままに昼月のある空

蜂もいそがしい野苺咲いた

誰も来ない蕗の佃煮を煮る

つめば蕗のにほひのなつかしく

の香のしみじみ指を染めた

初夏の、宵月の、何か焦げるにほひ

ここまではあるけたところで熱い温泉がある

あかるくあつくあふれる湯にひたりおもひで

惜しみなくあふるるよながるるよ

街からついてきたで打つ手は知つてゐる

ゆふべおもむろには殺された

打つ手を感じても私もおちつかない

草が青うてどこかの豚が出て遊ぶ

よい湯あがりのはだかであるく雑草の風

朝風の青梅をぬすむ五つ六つ

家は青葉の中からアンテナ

郵便がなぜ来ない朝から雀のおしやべり

青葉あかるくげつそりと年とつた鏡の顔

これが今日のをはりの一杯をいただく

青葉そよぐ風の、やぶれた肺の呼吸する

夕風がでてあんたがくるころの風鈴が鳴る

かたづけてまだ明るい茄子に肥水をやる

月夜の、洗濯ですか、よいですな

月夜の蛙がなく米をとぐ

厠のあかるさは月のさし入りて