和歌と俳句

藪陰に涼んで蚊にぞ喰はれける 漱石

蚊の声にらんぷの暗き宿屋哉 子規

蚊をたたくいそがはしさよ写し物 子規

大風のあとを蚊の出る山家哉 子規

住みなれし宿なれば蚊もおもしろや 虚子

是非もなや足を蚊のさす写し物 子規

叩かれて昼の蚊を吐く木魚かな 漱石

うかと来て喰ひ殺されな庵の蚊に 子規

禅定の僧を囲んで鳴く蚊かな 漱石

独居の帰ればむつと鳴く蚊哉 漱石

蚊の多き根岸に更けて詩会あり 虚子

鳴きもせでぐさと射す蚊や田原坂 漱石

溝板踏んで蚊の中に入る裏戸かな 虚子

蚊の声やうつつにたたく写し物 子規

さしかゆる佛の花に昼蚊かな 虚子

老僧の骨刺しに来る藪蚊かな 虚子

寝て聞けば遠き昔を鳴く蚊かな 放哉

泉掬ぶ顔ひややかに鳴く蚊かな 蛇笏

蚊を打つて大きな音をさせにけり 鬼城

壁の明るさ蚊はそれぞれの影落したれ 山頭火

夜深く饗宴の酒をすふ蚊かな 蛇笏

迢空
ま日深くこもれ家に 待ち久し。蚊は鳴き寄り来。ほのに ま遠に

蚊の声や夜深くのぞく掛け鏡 蛇笏

耶馬に来て羅漢寺の蚊に食はれけり 虚子

耳元に蚊の聲のして唯眠し 虚子

蚊の入りし声一筋や蚊帳の中 虚子

茂吉
さ夜ふけゆきて朱硯に蚊がひとつとまりて居るも心がなしも

蚊の聲のむつと打ちたる面かな 虚子

蚊いぶしの煙に遊ぶ蚊にくし 虚子