和歌と俳句

翡翠 かわせみ しょうびん

翡翠の筑波おろしに吹るゝか 白雄

川蝉や柳静かに池深し 子規

古池や翡翠去つて魚浮かぶ 子規

川蝉や柳垂れ蘆生ふる処 子規

川せみやおのれみめよくて魚沈む 子規

御庭池川せみ去つて鷺来る 子規

川せみや池を遶りて皆柳 子規

晶子
高野川河原のかなた松が枝にかはせみ下りぬ知る人の家

川せみの御座と見へたり捨小舟 龍之介

翡翠去つて人舟繋ぐ杭ぜかな 虚子

かわせみに蔦をよそはぬ老樹なく しづの女

翡翠のこゑのはれゆく雨を追ふ 秋櫻子

翡翠の翔けし一瞬息とまる 悌二郎

萱わたる翡翠に水やありとしる 石鼎

かはせみや或は蓮葉高低に 石鼎

翡翠の一蹴し去る杭かな 喜舟

かはせみや水つきかかるふくらはぎ 草城

翡翠の影こんこんと溯り 茅舎

山蔭の水の隅なる翡翠かな 石鼎

赤き太き嘴で翡翠尾短な 石鼎

牧水
藤蔓の 葉の茂みより こぼれ落ちし 川蝉の鳥は 水にむぐりぬ

翡翠や簾がくれに見てゐたる 花蓑

翡翠や露の青空映りそむ 波郷

翡翠が涼めし水のみだれのみ 汀女

翡翠の飛びたつ色や水の上 淡路女

翡翠の飛ぶこと思ひ出しげなる 草田男

はつきりと翡翠色にとびにけり 草田男

翡翠の淵掠めしを見下しに 草田男

翡翠一点三味は嘆かう江の奥処 草田男

翡翠一点蜑の煙管か一閃す 草田男

とびたるは赤しやうびんや谷はざま 石鼎

三宝寺池の翡翠藤浪に 茅舎

翡翠の紅一点につづまりぬ 虚子

霧の中翡翠飛んで失せにけり 花蓑

翡翠が飛ばぬ故吾も歩まざる しづの女

翡翠に遅刻の事は忘れ居し しづの女

青淵に翡翠一点かくれなし 茅舎

樟大樹孤独の翡翠翔けまどひ 草田男

翡翠去つて指に指環の残るのみ 草田男

かはせみ飛び残しゝ青を人と見し 綾子

かはせみや電線うつる江を溯り 誓子

かはせみや臭木の枝を翔つて去る 誓子

翡翠の飛ばねばものに執しをり 多佳子

並び川翡翠一より他へ移る 誓子

翡翠に梅雨月ひかりはじめけり 龍太