大島の噴煙東風にかきくもり
夕野火を見てのぼりゐる鐘楼かな
暗き夜や伊豆の山火を漁火と
石鹸玉柳の風に後じさり
芽柳の流れて風のまゝにあり
水無月の埃つもれる芭蕉かな夏羽織著て我に逢へり妻の前
涼人飛び飛び渓の石の上
鳴き出でし滝の中なる河鹿かな
翡翠や簾がくれに見てゐたる
其の上に竹の雫や蕗の雨
三伏の門に二本の百日紅
霧の中うすうす湖の鏡かな
寄生木のうすうす見えて霧の中
鰯雲縫うて昼月かくれなし
花火揚に子供花火も揚るなり
茸狩や木の間伝ひに次の山
川下の障子洗ひのかげりけり
海をなす出水に障子洗ひけり
しばしばや椋鳥通る庵の空
やれやれて水にうつれる芭蕉かな
持船の大額かゝる煖炉かな
飴の玉いくつもふんで日向ぼこ
つらつらと見上げて高き冬木かな
雪折の竹もうもれし深雪かな