和歌と俳句

鈴木花蓑

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

橋の人二階の人や野火を見る

花の幕かけはなれたる河原にも

雀の巣浮間の橋の橋桁に

梅林や何匹となく四十雀

海棠や陪審廷の廊の庭

涼しさや蝦釣舟の赤行燈

庭清水団扇を置いて掬びけり

遊園や菖蒲葺きたる屋形船

鵜篝の流れ流るゝ焔かな

鵜篝や月の山蔭山蔭に

くらがりに釣して円き蛍籠

樹々の上に噴水見ゆるときのあり

橋立は雨にかくれて雨蛙

時鳥谷田は田植すみてあり

山中の大石橋や時鳥

秋雨や朴を前なる大二階

啄木鳥の木の間に見えし二階かな

葛の花釣りある駕に這ひ渡り

中障子一枚あけし紅葉かな

隧道も隧道も皆蜜柑山

初霜や唐招提寺志す

初雪のまだらに降りし嵐山

カーテンを覗いて見たる牡丹雪

クリスマスけふの花婿花嫁御

浮寝鳥一羽のさめて啼きにけり

屏風岩高く翔れる鴛鴦もあり

霜除の中に蕾みし冬牡丹

藪口に注連飾して藪の村

島三つ巴に霞む浦もあり

春潮の泡網の如くなりて消ゆ

蒔くところありて朝顔蒔いて置く

白魚の漁火となん雪の中

のしばらく鳴かぬ間かな

川べりに植木棚あり猫柳

覗き見てまだ水草の生ひてゐず

笊の上にのせわたしある長き独活

菜の花や名古屋の城のよく見ゆる

涼風のどちらからとも定めなく

あととりや人と成りたる夏羽織

雨ありしあとの日傘や菖蒲園

水鶏の巣こゝにあり苗捨てゝあり

神垣の外の風雨の牡丹かな

千々に置く白きさうびの花の露

咲きのぼる葵の花の夏たのし

蒲の絮水にとまりて吹かれをり

秋暑や袂かぶりて水を汲む

うすらげる靄の中より後の月

法師蝉月の莚の設けあり

たまたまの夜の遑に障子貼る

大いなる銀杏黄葉や明治節

鵯や山王つゞき星ヶ岡

鬼灯や洗濯物に精を出し

縁の上によき一鉢の雨の

立ち出でゝ戻る日もあり冬籠

たそがるゝ戸口に立ちて毛糸編む

枯木中白鳥見えて池のあり