古今集・夏 躬恒
夏と秋と行きかふそらの通路は かたへすずしき風やふくらん
涼風や虚空にみちて松の声 鬼貫
涼風や新酒をおもふ蔵の窓 支考
舟板に凉風吹けどひだるさよ 一茶
凉風の曲りくねつて来たりけり 一茶
洞穴や涼風暗く水の音 子規
涼風や愚庵の門は破れたり 子規
涼風や寄る辺もとむる蔓のさま 亜浪
晶子
大きなる檀の下に美くしく篝火もえて涼かぜぞ吹く
涼風の暫くしては又来る 虚子
涼風のつよければ倚る柱かな 草田男
涼風の波打つ如く衣を打つ 草田男
目覚めては涼風をける足まろし 鳳作
吾子たのし涼風をけり母をけり 鳳作
涼風のまろぶによろしつぶら吾が子 鳳作
涼風や籬の上なる五剣山 野風呂
涼風のどちらからとも定めなく 花蓑
涼風の面を衝つて渇癒ゆる 草田男
涼風の此戸開けたるばかりにて 立子
しようしようと真夜の涼風星より来 草城
涼風のひたと吹き曲ぐ帽のへり 汀女
待つ程もなく涼風のたたみ来る 立子
涼風のはげしきゆゑに嬰を返す 龍太
涼風にたたきのめされ舟棹せる 青畝
涼風に打擲されて笑める客 青畝
涼風のあふぐが如く渡り来る 立子
縁柱細り涼風起りけり 立子
紐の如く糸の如くに涼風が 立子
涼風の天守にゐても子を叱る 不死男