初蝉のこゑひとすぢにとほるなり
人間の声をつらぬき蝉のこゑ
独臥して夏日寂寞たる放屁
炎ゆる昼青篠の葉は常騒ぐ
ぼんのくぼいつも冷たし水枕
白桔梗眼にあり炎暑極まりぬ
浅かりし真昼の夢に寝汗しぬ
炎天に芥焼く火ぞすさまじき
炎天に黒き喪章の蝶とべり
炎天に雷蝶の羽搏つ音
妄想をはびこらしめて暑を凌ぐ
しようしようと真夜の涼風星より来
纏ふ蚊の一つを遂に屠り得し
妻の痩眼に立ちそめぬ大旱
わが背に艾の燃ゆる土用かな
妻の手の生むもぐさ火の熱きこと
仏間より香のきこゆる大暑かな
ひそかなるわがしはぶきや台風裡
台風や痰のこそつく胸の奥
昼寝ざめさびしき妻や子は旅に
蚊火の妻二日居ぬ子を既に待つ
藍冴ゆる浴衣をしやんと小女房
藍浴衣着て白き手を膝の上
藍浴衣着るとき肌にうつりけり
炎天下大木の挽き切られたる