和歌と俳句

日野草城

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初蝉のこゑひとすぢにとほるなり

人間の声をつらぬき蝉のこゑ

独臥して夏日寂寞たる放屁

炎ゆる昼青篠の葉は常騒ぐ

ぼんのくぼいつも冷たし水枕

白桔梗眼にあり炎暑極まりぬ

浅かりし真昼の夢に寝汗しぬ

炎天に芥焼く火ぞすさまじき

炎天に黒き喪章の蝶とべり

炎天に雷蝶の羽搏つ音

妄想をはびこらしめてを凌ぐ

しようしようと真夜の涼風星より来

纏ふの一つを遂に屠り得し

妻の痩眼に立ちそめぬ大旱

わが背に艾の燃ゆる土用かな

妻の手の生むもぐさ火の熱きこと

仏間より香のきこゆる大暑かな

ひそかなるわがしはぶきや台風裡

台風や痰のこそつく胸の奥

昼寝ざめさびしき妻や子は旅に

蚊火の妻二日居ぬ子を既に待つ

藍冴ゆる浴衣をしやんと小女房

藍浴衣着て白き手を膝の上

藍浴衣着るとき肌にうつりけり

炎天下大木の挽き切られたる