芍薬の白の一華をたてまつる
まなじりに翻りて白し夏の蝶
豌豆の煮えつつ真玉なしにけり
しづかなり暮天に桐の若葉揺れ
蒼茫とわれも暮れつつ五月の蚊
ゆうぞらの夜空にかはる五月の蚊
貌暮れぬ風さはり蚊の声さはり
新緑やうつくしかりしひとの老
夏蜜柑白歯にかんで少女さぶ
ほそくきの花に耐へつつ笹百合は
たをやぎてますぐなり得ず笹百合は
樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ
喬木の梅雨のしたたり潅木に
南瓜の葉見る間も濶くなるごとし
昼風呂に久しくは居る梅雨を侘び
日野草城かくれもあらず湯の澄に
引き据うるわが俳諧や飢餓の前
小豆飯あづきに染みてやさしさよ
梅雨荒し泰山木もゆさゆさと
空腹に梅雨のかみなりひびくなり
大梅雨の荒梅雨の底にわが病める
梅雨茫茫生死いづれもままならず
荒梅雨のひびきを薄き胸に受け
暑き子等足らはぬ飯をいしぎ食ぶ
梅雨の熱ずうんと騰りまた騰る