薔薇を瞥し婦人記者薔薇のことは言はず
紅薔薇の咲き切つてをり客長座
夏立ちぬいつもそよげる樹の若葉
夏立ちし日の焼鯖の馥郁と
美しき五月の晴の日も病みて
病みぬれば蒲焼を喰ふ奢かな
花過ぎて寂かなりけりつつじの木
ただ青し花終りたるつつじの木
新緑の暮るるのみなり肩の凝
微熱あり夕づく若葉静謐に
新樹濡れあたたかき牛乳なみなみと
新緑やかぐろき幹につらぬかれ
三春経ぬ薬の味のかはりつつ
美しき五月微熱を憂しとせぬ
薄暑なり光り飛び交うもの殖えて
病快し宵の明星真額に
金星にひびかふ麦の夜風かな
いとけな手をたづさふる夕歩き
蝉の午後妻子ひもじくわれも亦
とりわきて娘のひもじがる夏ゆふべ
芍薬の花を愛でつつひもじけれ