和歌と俳句

日野草城

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停年が日に日に迫り日々の梅雨

老けし手に梅雨の霽れ間の日が当たる

てのひらにさする机の梅雨じめり

茂草の旦より萎え雨降らず

雨降らずをとめも熱き息をせり

焦げついてくる陽に髪の毛が枯れる

石が灼け鉄が灼け硝子が灼けてゐる

朝ぐもり淫楽呆けの貌出で来る

夏草に溲したたか朝帰り

空碧し朝は閑かに葬儀場

碧い空極暑の雲は朝も輝る

夾竹桃たわわに墓は数知れず

朝も暑し墓にまぎれて人餓うる

露涼し洗はぬ顔の妻や子や

朝曇するどく晴れぬバスの窓

朝暑しひとの体温脇腹に

かんばせのごとくに咲ける牡丹かな

咲き張りてくれなゐ飽ける牡丹かな

たわたわとして咲き倦める牡丹かな

天日を仰いでしぼむ牡丹かな

西塔残花に在り東塔は新緑

ぼうたんを見尽して日のあまりけり