牡丹苑顔ほてらせて寡婦若き
天上の夫をおもへり牡丹苑
人逝きて日に日に遠し牡丹苑
ふところに質札牡丹うるはしき
牡丹皓し窘しき恋をひとしれず
夕雲の熱きに触るる伝書鳩
赤き紙眞夏の夜半の闇を来たり
斬髪して陸軍砲兵少尉なり
國の夏古き軍服は着てたるむ
短髪の蒼き頭顱を子にわらはれ
あはれ子には長き演習にゆくと告げぬ
軍刀重く夕焼の家を顧る
泣くまじき妻の眼よむしろ嚴しき
たのしげにわらふ子の瞳を見る訣れ
乾坤に白炎満ちて非常なり
日章旗掲げ祝祭日にあらず
歓送の婦女も双腕高くフぐ
持薬飲み補充兵われ腑外甲斐なき
諜者の眼片蔭に在るごとくなり
野を蔽ふ大進軍を白日の夢