和歌と俳句

日野草城

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初夏の朝の雀斑うつくしき

道の初夏クロームコンタックス重き

新樹耀りクロームコンタックス冷ゆる

慰霊の日泰山木の一花の白

みよしのや青水無月の青山の

みなつきの吉野は朝日子のはやき

青山やしき啼きわたる朝鴉

もろ鳥の朝ごゑ懸巣殊に啼く

朝さやか桃の若実はさにづらふ

青山やしら雲の照あしたより

晴れたまふ如意輪観世音おがみけり

吉野川ここにしての瀬とたぎつ

の脊のみゆるがごとし吉野川

栗の花にほひ食用蛙鳴き

奈良の雨降りしきりけり子の傘に

雨の日の朱き廻廊に子と寂しき

子とあふぐ雨のゆふべの盧遮那佛

古き世のにほひのなかに子の稚なさ

汗の香のほのかに寝ぬる子の愛しさ

さつきばれ青葉の花は散り果てず

みそははす皐月の湖のてりくもり

みづうみにうつる蛍をゆめにみき

遠山に滝は見えつつおともなき

あさまだき草にあやめのこむらさき

七月の浪を見てゐし眼を閉づる