和歌と俳句

新緑 緑

新緑や松は黝む東山 草城

新緑にいよいよ古き伽藍かな 草城

新緑や空わたりゆく蝶々かな 青邨

新緑や皇居名残の霊柩車 水巴

新緑やたましひぬれて魚あさる 水巴

檜葉終に新緑あげて来りけり 石鼎

新緑の雨に紅茶のかんばしく 草城

新緑にひと日なつかし那須の雨 石鼎

新緑を追ふ旅をしてもどりけり 石鼎

新緑の梅雨にはいまだ日あるべし 石鼎

呼びたてぬ庭の新緑これを見よと 石鼎

新緑やたへにも白き琴弾く像 青邨

西塔残花に在り東塔は新緑に 草城

日常の眼鏡の反射緑なす 誓子

新緑にさだかならざる目鼻かな 杞陽

新緑や髪の捲きかたかへて見き 知世子

新緑の夜や乳ぜり泣くその児知る 誓子

新緑のゆふべかたへに子あるなし 誓子

新緑の暮るるのみなり肩の凝 草城

新緑やかぐろき幹につらぬかれ 草城

新緑やうつくしかりしひとの老 草城

新緑ややはらき地に材を置きて 誓子

新緑や旅する肘を汽車に見る 誓子

新緑や兄欲る東大構内に 不死男

新緑や薔薇の花びら地に敷きて 草城

新緑に電燈點きし音はせず 誓子

新緑に声しはがれて鴉過ぐ 誓子

新緑の瑞泉寺とやいざ行かん 虚子

隧道の中緑光のレール二本 誓子

新緑や老師の無上円満相 草城

新緑や日光あぶら濃くなりて 草城

新緑へ数歩出しとき金堂鎖す 誓子

新緑に美貌の母を子が誇る 誓子

新緑に犬が真夏の呼吸づかひ 誓子

新緑や柔腹つけて豹匐ふ 誓子

新緑の浅間雪なく雲もなし 秋櫻子

新緑や殊に水際のななかまど 秋櫻子

新緑や硝子戸掻きて犬の貌 悌二郎

たのしみて訪ひし緑の館かな 立子

彦根城緑の丘の隆起なる 誓子