和歌と俳句

鯉幟 こいのぼり

子規
百万の甍しみみにつらなりて上野颪に鯉あがる見ゆ

風吹けば来るや隣の鯉幟 虚子

子規
あで人の 住める御殿の 塀長く 椎の梢に 鯉ひるがへる

鯉幟を下して居るやにはか雨 放哉

旧暦の節句の鯉がをどつて居る 放哉

鯉幟夕べたれけり木槿垣 蛇笏

社家町や樗の花に鯉のぼり 蛇笏

鯉幟眼に仕掛ある西日かな 鬼城

鯉幟槐の幹に大あほち 泊雲

裾野より明けそむる野や五月鯉 石鼎

鯉幟麦の疾風に逆立ちて 花蓑

鯉幟霞みながらに安房見えて 花蓑

旧暦の節句の鯉がをどつて居る 放哉

矢車に順じて小さき鯉幟 みどり女

煙あげて塩屋は低し鯉幟 久女

大阪の甍の海や鯉幟 久女

目の下の煙都は冥し鯉幟 久女

彦山の天は晴れたり鯉幟 久女

日が照れば登る坂道鯉幟 久女

浦浪を見はるかすなり鯉のぼり 秋櫻子

黄塵の空にいく日ぞ鯉のぼり 烏頭子

夕月やあぎと連ねて鯉幟 鷹女

みちのくは小家小家の鯉幟 石鼎

晴れて帆柱の小さな鯉のぼり 山頭火

山かげふつとはためくは鯉幟 山頭火

鯉幟あげしばかりに日照雨かな 淡路女

黄塵を吸うて肉とす五月鯉 しづの女

五月鯉吾も都塵を好みて棲む しづの女

鯉幟王氏の窓に泳ぎ連れ 三鬼

下町や省線電車鯉幟 杞陽

真上なる鯉幟まづ誘ひけり 汀女

釣堀の空に立ちそめ鯉幟 万太郎

鯉幟ポプラは雲を呼びにけり 茅舎

空たかく千鳥がすぎぬ鯉幟 秋櫻子

野地となり眺めひらけぬ鯉幟 立子

旅の身は電柱に倚り鯉幟 草田男

鯉幟牡丹ばたけにとほきかな 万太郎

森の上に幟の鯉の泳ぎいづ 秋櫻子

野の農夫活かす血真赤か鯉幟 草田男

鯉幟折目のつきしまま靡く 誓子

鯉幟風に折れ又風に伸ぶ 誓子

海男児の土佐は宿毛の鯉幟 悌二郎

三日泳がぬ山中の鯉のぼり 不死男

碧の鯉加へて海の鯉幟 誓子

山国の旋風に狂う鯉幟 誓子

草の戸も揺らぐ源氏の鯉幟 静塔

空港に逆立つ風見鯉幟 誓子

南朝の末の末とし鯉幟 青畝