和歌と俳句

原 石鼎

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みちのくは小家小家の鯉幟

松の花牡丹の蕋と踏まれ居り

年々や栗の若葉に思ふこと

雨のごとき露の牡丹に下りたちぬ

みちのくの花がつみとははづかしげ

鶏よけをはづし招かれ茣蓙布団

鶏よけをかけめぐらして蚕飼かな

これはまた葉の一つなき紅空木

滝つ瀬の移り見えつつ若葉かな

日輪と月輪を空やの暈

この鳥居くぐれば若葉心かな

眉ひける飯豊の雪や明易き

みちのくに来て菖蒲湯のありがたや

日ざし来し塗師が家や桐の花

何といふ餅の白さや若葉宿

夏空や飯豊はひける雪一すぢ

赤き羽の川々蜻蛉新鋤田

けふもまた啼くくわくこうや新鋤田

七日ゐて七日の晴や田植時

みちのくの五月の晴を見に来り

早乙女も早苗女房も若葉より

あやめと紫あやめ雨の庵

緑蔭の白牡丹一つ咲いて一つちりぬ

牡丹けふ雹降る中にほころびぬ

牡丹かかぐ玉の蕾に雹止みぬ

両手もて抱かむと思ふ牡丹かな