和歌と俳句

原 石鼎

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初夏やピアノの上のヴアイオリン

初夏の三階に見ゆる町の屋根

候過ぎし牡丹に花の面影や

紅白に巻きしてぼたん忘れめや

燈籠の障子出来来ぬ若葉庭

しろこばと梧桐の若葉越えもどる

板の間に蚕豆うつす音すなる

から梅雨に泰山木の花ざかり

天に海に烏賊船の火のともりそめ

ひとときは烏賊釣の火のうるみもし

へつひべに二つ買ひある真烏賊かな

麦笛をこまごまとかむ前歯かな

薄様の鉋をながれ梅雨晴間

梅天や鎖ぢて久しき大ピアノ

水道のごとごとといふ梅雨かな

梅雨あけて大いなる日の翼来ぬ

湧くこぼるる蛍こもり沼に

這ふつまめば翅のなよなよと

天に光り虚空に光り夕蛍

これはまた二尺四方の蛍籠

籠の皿に移して大いなる

一つ巌のしたとうえとに遊ぶ

魚籃の底に乏しき鮎や梅雨そばえ

大臣来て両岸の鮎売れにけり