初夏やピアノの上のヴアイオリン
初夏の三階に見ゆる町の屋根
候過ぎし牡丹に花の面影や
紅白に巻きしてぼたん忘れめや
燈籠の障子出来来ぬ若葉庭
しろこばと梧桐の若葉越えもどる
板の間に蚕豆うつす音すなる
から梅雨に泰山木の花ざかり
天に海に烏賊船の火のともりそめ
ひとときは烏賊釣の火のうるみもし
へつひべに二つ買ひある真烏賊かな
麦笛をこまごまとかむ前歯かな
薄様の鉋をながれ梅雨晴間
梅天や鎖ぢて久しき大ピアノ
水道のごとごとといふ梅雨かな
梅雨あけて大いなる日の翼来ぬ
湧く蛍こぼるる蛍こもり沼に
這ふ蛍つまめば翅のなよなよと
天に光り虚空に光り夕蛍
これはまた二尺四方の蛍籠
籠の鮎皿に移して大いなる
一つ巌のしたとうえとに遊ぶ鮎
魚籃の底に乏しき鮎や梅雨そばえ
大臣来て両岸の鮎売れにけり