和歌と俳句

原 石鼎

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鹿下りつ橋と定りぬ今朝の

巌によれば山のつめたき小春かな

木枯や巌間に澄みし谷の水

切株の虚空さまよふ枯尾花

山かげや水鳥もなき淵の色

猪を追けたる雪の二峰かな

諸道具や冬めく杣が土間の壁

月の堂鳩禰宜を怖るる冬木影

こし雪の山見て障子しめにけり

削げ山も師走月夜のものゝうち

奥荒れの猿を見来しと師走

日のさせば巌に猿集る師走かな

銃口や猪一茎の草による

杣が往来映りし池も氷りけり

月に侘びにかこつとぼそかな

雪峰の月はを落しけり

納屋蔭に柴こぼれゐる冬の月

猪食つて山便りせん鎌倉へ

山蔭の水にうつりし冬木かな

山寺の冬夜けうとし火吹竹

焚く火もや灯しごろを雪山家

かなしさはひともしごろの雪山家

山長者の年木ゆゆしく積まれけり

追儺ふときにも見えし嶺の星

山国の闇恐ろしき追儺かな

犬呼ぶに口笛かすれ小春かな

揚げ船の濡れひかり居る小春かな

浜草に雀むれゐる小春かな

島がくる帆に色強し小春

鰤網を干すに眼こはし浜烏

初鰤にこの灘町の人気かな

磯鷲はかならず巌にとまりけり

短日の磯を汚しし烏賊の墨

あさましく柚子落ちてあり冬の雨

想ひ見るや我屍にふるみぞれ

煤掃や日の当りたる庭の松

橋に出て屏風掃きけり煤払ひ

節分の高張立ちぬ大鳥居

漁夫町はめ戸にそぼつ冬の雨

みあかしを手燭に借りる寒さかな

や提灯もちて田舎人

青空へ荒れ居る浪や冬の雁

日かげりて帆消えし海や鷲翔る

汐木拾へば磯べに冬日したたれり

炉開いて暫し日あるや窓の海

牡蠣船に枯木の影や月の下

病める母の障子の外の枯野かな

炭部屋の中から見えし枯野かな

冬の海に雲やけ見ゆれ懐かしき