和歌と俳句

原 石鼎

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寒卵二つえて鶏舎を来し子かな

寒卵とりいれて雨戸とざしけり

いさゝかをたくはへもちて寒卵

映る燈の光芒卵黄に寒玉子

掛三味線の袋華やかや寒雀

枯芝に沈みて居りぬ寒雀

寒雀雪が降るかとみるなべに

水餅に日月遠き思ひかな

水餅や混沌として甕の中

水餅や戸棚の奥のきなこ皿

水仙の花がくれなる蕾かな

白玉の花の蕊見よ水仙花

水仙の花の蕊見よ水仙花

このこゝに人はしらざる冬野草

春ちかく沈丁に芽のこぞるかな

繊月に星ふりかはり冬に入る

おぞましく色も大いさも冬鶏頭

日陰なる葉かげに見ゆるお茶の花

お茶の花蕾と白く暮れまどふ

茶の花の蕾ふくらむ数日和

山茶花の蕚枯れ落ちし響かな

鴉さへに神のりおはす小春かな

敷布はたく埃虹する小春かな

汽関車につゞく車輪の小春かな

大雪を待つかに大野草枯れて

うたゝ寝の覚むればありし布団かな

落葉降る中にかそけき白堊かな

さらさらと小霰あたる巣棲風かな

松の鴉を巣棲風に凭る子ほうと追ふ

刈り口をみなそとに向け巣棲風かな

藁ばかまひらひらとして巣棲風かな

緒すげむと巣棲風の蔭による子かな

野の巣棲風一角くづれ小春かな

かみなづき月は軒端にありながら

落葉動く下にこまかき落葉かな

日と月とあだかも枝へ鴟来る

夕月に茶褐色なる鴟なりし

頭をたてゝ梟の顔うすきかな

ふくろふの嘴爪と曲り居る

夕霰降りかくしけり鴟の森

ふくろふの夕なきうつるはるけさよ

さゞら田に鴨の足跡見つけけり

一すぢの滝の心や枯木山

笹啼の籠の頬白に憑く日かな

ビロードの襟かへてある衾かな

鴉たゆたふ北風野路の吾が頬にも

青き葉に糞して鵯は雪空へ

日のあたる雪の山木と庵木かな

雪に来て美事な鳥のだまり居る

大年や華やぎ入りしピアノの間

除夜の鐘天の磐笛音もぞすれ

除夜の鐘京の真中へ鳴りあへり

除夜いまや五山の鐘のいりみだれ

智恩院の鐘はひよどみ除夜の闇

除夜の鐘遠ちかたなるがつきをさめ

除夜の鐘金ペンを灯に透かすとき