和歌と俳句

原 石鼎

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拍子木や冬の夜番のありがたく

東に雲やけ暮るる冬田かな

地を出し物みな枯れて冬田かな

刈株のかわきて朽つる冬田かな

畦草の殊に枯れたる冬田かな

夕凪の雲美しく寒の果て

神ながら巌ぞ立てり神無月

冬めくや朝日くまなく住む庵

大いなる海の力や石蕗咲ける

地軸より咲きし色なり石蕗の花

うすうすと大地の苔や石蕗の花

地軸よりぬき出て咲けり石蕗の花

雨に照り日に濡れ石蕗の花崇し

花終へて安らけき石蕗の葉なるかな

秋出水終に立冬に及びけり

日短さ妻嘆きたる夜なるかな

妻とわれに垣の内外の冬木かな

婆子逝きて夕日影添ひ大師講

天に星地に雪原やクリスマス

妻縁を走り障子開け初雪見せにけり

けふの雨鵞毛の如きまじる

朝戸繰りどこも見ず只冬を見し

深吉野の罔象の神を壬子待

十七夜の月煌々と歳の暮

静かにも空晴れ渡り歳の暮

甘きもの頻りにほしく除夜の鐘

寒卵一つ割つたりひびきけり

寒雨の中に見え来る雫かな

榛の木を打つて流るる寒の雨

寒鯛の煮凍り箸に挟みけり

野ひたきの尾を震はせぬ寒紅梅

日の経も日の緯も実に氷の様

芭蕉忌や南の涯の霽れて居り

西風にはらはら落つる木の葉かな

朝夕にさんまの味や枯紅葉

煮大根の味もいさゝか衰へし

寒空に囲を張つて蜘蛛頑張れる

寒閨の妻をいとしみ寝まるかな

我が前の畳を這へり冬日影

渡る気色に夜を徹しけり

たそがれの静けさ添はず冬の木々

枯れ幹に風蘭も蔦も青かりき

枯木より猫が降りざり犬が居る

中天の日の光浸み枯尾花

卵割つてぽとと落しぬ葱汁

ユネスコのこころを持ちて冬籠

冬靄の中に点りし燈かな

妻出づるやひたき騒げる冬の庭

篠の子の伸びも伸びたり雪催ひ

師走閑に相模は昼の鐘供養

小春よき相模の国や年の市

日影なく空に雲なく暮るる年

白猫に蕾だらけの寒紅梅

炭田活けて春待つ心さびしけれ

旦より二の酉小雨光り降る

寒雁のほろりとなくや藁砧

柿の葉の枯れ色紅葉且つちりぬ

初冬の夜明けの浪のうねりかな

錦木の真紅の紅葉この冬も

白も黄も濃く飛ぶ蝶や小春庭

鵯雀小春の光りよろこべり

番雁の踏める落葉に朝日かな

青帝鶴に仔を連れさせて引かせらる

月面に寒雁の翳かかりけり

早も小雪かゝりし水や鴛鴦の沓

大空と大海の辺に冬籠る

今日足袋をはき替へにけり寒ければ

霜降りのそぞろに暮れて懐しき

鴉飛び紺の雉子飛び雪曇り

黄鶲が出れば緋鶲雪の上

音なしの幾夜の冬の相模灘

秋あはれ冬はかなしき月の雁

松朽ち葉かからぬ五百木無かりけり