和歌と俳句

葱 ねぶか ひともじ

葱白く洗ひたてたるさむさ哉 芭蕉

娵もはや世帯じみたり根深汁 也有

葱買て枯木の中を帰りけり 蕪村

ひともじの北へ枯臥古葉かな 蕪村

葱洗ふ流もちかし井手の里 蕪村

痩葱にさかな切込磯家かな 几董

寒き野を都に入や葱売 几董

雪国や土間の小すみの葱畠 一茶

明がたや葱明りの流し元 一茶

子規
山里や木立を負ふて葱畠

鬼城
石の上に洗うて白き根深かな

葱の香に夕日のしづむ楢ばやし 蛇笏

人妻よ薄暮のあめに葱やとる 蛇笏

月にねむる峯風つよし葱をとる 蛇笏

葱を洗ひ上げて夕日のお前ら 碧梧桐

草ひいて煙程の葱育てけり 泊雲

葱ぬいて戻りし人や竃の裏 石鼎

葱引くや颪の中にある暮色 喜舟

傘の輪の面白く落ちをり夜葱切る 青畝

葱ひくや昨日の霰そのまゝに 泊雲

夜の客に手探りに葱引いて来し 汀女

家も夫もわすれただ煮る根深かな 蛇笏

山畠や日の向き向きに葱起くる 龍之介

ひたすらに夫をたよりや根深汁 淡路女

となりにも雨の葱畑 放哉

葱ひきや鳥のとまりしたて朸 禅寺洞

雨はれてふたゝび寒し根深汁 草城

葱洗ふ夕くらがりの水迅し 月二郎

山頭火
雪の日の葱一把

山頭火
一把一銭の根深汁です

伏せ葱に夕三日月の影しけり 亞浪

老夫婦いたはり合ひて根深汁 虚子

弓張の提灯くらし青葱ひく 石鼎

小提灯葱畑照らし戻りけり 石鼎

溜池をめぐりて葱の畑かな 石鼎

葱畑の猫の眼燐や岨の闇 石鼎

葱畑やまた峰の月むら雲に 石鼎

葱光るところ白根の葉へうつり 石鼎

母子寮の厨に見えて葱白し 亞浪

貧の香のきこえて煮ゆる根深かな 麦南

葱の香の面に移る寂しさよ 耕衣

夢の世に葱を作りて寂しさよ 耕衣

死にたしと言ひたりし手が葱刻む 楸邨

葱を切るうしろに廊下つづきけり 槐太

いつからの猫背のくせぞ根深汁 万太郎

葱屑の水におくれず流れ去る 汀女

二人居の一人が出でて葱を買ふ 綾子

人の世へ覚めて朝の葱刻む 鷹女

卵割つてぽとと落しぬ葱汁へ 石鼎

老いてなほ漁師たくまし根深汁 真砂女

霜ふかき深谷の葱のとゞきけり 万太郎

亡母去る葱の白根に土かぶせ 鷹女

葱汁は熱きほどよし啜りけり 万太郎

闇老いて葱浮々と洗われけり 耕衣

葱さげて橋のなかほどより淋し 双魚

葱食えば浮世石橋黄なるかな 耕衣

伐折羅見て葱あをあをと茂るかな 林火

太陽は葱の此方に寂しきかな 耕衣