井戸からもひとつ汲けりけふの月
美濃近江起てやかたるけふの月
鐘撞や我手におしむけふの月
芋よりも名はさ ゝげにぞ十六夜
鮓うりを垣からまねく穂蓼哉
昼からの鍋にしかける夜寒哉
富士はたゞ袴に着たる錦かな
丸ふ咲て月に見せけりけふの菊
辻番も一もと菊のあるじかな
もる軒に時雨もちかし後の月
菊畑にのこる星あり後の月
不破のあれ芭蕉に見るや後の月
上を見ぬ目にも欲あり菌狩
蓑虫の父よと呼ばかゝし哉
ゆく秋や尻も結ばぬ糸すゝき
行秋の時雨そふなと急ぎけり
秋来ぬと聞や豆腐の磨の音
折る指もけふから秋ぞ百日紅
秋なれや木の間木の間の空の色
牛牽て恋草かりや天の川
うしや今宵天の河原の茶挽草
七夕や葛ふく風は夜明から
星の床まだ仕廻ずや明の雲
魂棚や不順も順に置直し
送り火やわかれた人に別れあり