人麻呂歌集
天の川水さへに照る舟泊てて舟なる人は妹と見えきや
人麻呂歌集
天の川安の渡りに舟浮けて秋立つ待つと妹に告げこそ
人麻呂歌集
天の川い向ひ立ちて恋しらに言だに告げむ妻どふまでは
人麻呂歌集
いにしへゆあげてし服も顧みず天の川津に年ぞ経にける
人麻呂歌集
天の川楫の音聞こゆ彦星と織女と今夜逢ふらしも
憶良
天の川相向き立ちて我が恋ひし君来ますなり紐解き設けな
ひさかたの天の川瀬に舟浮けて今夜か君が我がり来まさむ
風雲は二つの岸に通へども我が遠妻の言ぞ通はぬ
たぶてにも投げ越しつべき天の川隔てればかもあまたすべなし
秋風の吹きにし日よりいつしかと我が待ち恋ひし君ぞ来ませる
天の川いと川波は立たねどもさもらひかたし近きこの瀬を
袖振らば見も交しつべく近けども渡るすべなし秋にしあらねば
玉かぎるほのかに見えて別れなばもとなや恋ひむ逢ふ時までは
彦星の妻迎へ舟漕ぎ出らし天の川原に霧の立てるは
霞立つ天の川原に君待つとい行き帰るに裳の裾濡れぬ
天の川浮津の波音騒ぐなり我が待つ君し舟出すらしも
伊勢物語
わがうへに露ぞおくなる天の河門わたる舟の櫂のしづくか
古今集 よみ人しらず
久方のあまのかはらの渡守 きみ渡りなばかぢ隠してよ
古今集 友則
天の河あさせしら浪たどりつつ渡りはてねばあけぞしにける
古今集 源宗千
今はとてわかるゝ時は 天の川わたらぬさきに袖ぞひちぬる
貫之
天の川 夜ふかく君は 渡るとも 人知れずとは 思はざらなむ
拾遺集 貫之
秋風に夜の更けゆけば天の河河瀬に浪の立ち居こそ待て
貫之
ひとしれず 空をながめて 天の川 波うちつけに ものをこそおもへ
兼輔
いつしかとまたく心をはぎにあげて天のかはらをけふやわたらむ
兼輔
七夕をわたしてのちは天の川なみたかきまで風もふかなむ
順
ろもかぢも舟もかよはぬ天の川たなばたわたるほどやいくひろ
好忠
空を飛ぶをとめの衣一日より天の川波たちてきるらし
拾遺集 公任
天河のちの今日だにはるけきをいつとも知らぬ舟出悲しな
公実
天の川 あふせ程なき たなばたに かへらぬいろの 衣かさばや
匡房
天の川 よのながつきも あるものを など初秋と ちぎりそめけむ
師頼
天の川 そらにこそしれ たなばたの くれをまつまの 秋のこころを
源顕仲
彦星の 急ぎやすらむ 天の川 やすの渡りに 舟呼ばふなり
基俊
天の川 波立つなゆめ 彦星の つまむかへ舟 岸によるなり
詞花集・秋 顕季
天の川 玉橋いそぎ わたさなむ 浅瀬たどるも 夜のふけゆくに
清輔
おもひやる けさの別れは 天の川 わたらぬ人の 袖もぬれけり
俊恵
天の川 みづかけ草の ゆふ露に そふさへあやな 袖な濡らしそ
定家
秋風やいかが身にしむ天の河きみまつ宵のうたたねのとこ
実朝
こひこひて稀にあふ夜の天の川河瀬の鶴は鳴かずもあらなん
定家
天の川文月は名のみかさなれど雲のころもやよそに濡るらむ