八千矛神自御世乏嬬人知尓来告思者
八千桙の神の御代よりともし妻人知りにけり継ぎてし思へば
吾等戀丹穂面今夕母可天漢原石枕巻
我が恋ふる丹のほの面わこよひもか天の川原に石枕まかむ
己嬬乏子等者竟津荒磯巻而寐君待難
己夫にともしき子らは泊てむ津の荒磯まきて寝む君待ちかてに
天地等別之時従自嬬然叙年而在金待吾者
天地と別れし時ゆ己が妻しかぞ離れてあり秋待つ我れは
孫星嘆須嬬事谷毛告尓叙来鶴見者苦弥
彦星は嘆かす妻に言だにも告げにぞ来つる見れば苦しみ
久方天印等水無川隔而置之神世之恨
ひさかたの天つしるしと水無し川隔てて置きし神代し恨めし
黒玉宵霧隠遠鞆妹傳速告与
ぬばたまの夜霧に隠り遠くとも妹が伝へは早く告げこそ
汝戀妹命者飽足尓袖振所見都及雲隠
汝が恋ふる妹の命は飽き足らに袖振る見えつ雲隠るまで
夕星毛往来天道及何時鹿仰而将待月人壮
夕星も通ふ天道をいつまでか仰ぎて待たむ月人壮士
天漢已向立而戀等尓事谷将告嬬言及者
天の川い向ひ立ちて恋しらに言だに告げむ妻どふまでは
水良玉五百都集乎解毛不見吾者年可太奴相日待尓
白玉の五百つ集ひを解きもみず我れは寝かてぬ逢はむ日待つに
天漢水陰草金風靡見者時来之
天の川水蔭草の秋風に靡かふ見れば時は来にけり
吾等待之白芽子開奴今谷毛尓寶比尓往奈越方人迩
我が待ちし秋萩咲きぬ今だにもにほひに行かな彼方人に
吾世子尓裏戀居者天漢夜船■動梶音所聞
我が背子にうら恋ひ居れば天の川夜舟漕ぐなる楫の音聞こゆ
真氣長戀心自白風妹音所聴紐解往名
ま日長く恋ふる心ゆ秋風に妹が音聞こゆ紐解き行かな