和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

前のページ< >次のページ

戀敷者氣長物乎今谷乏之牟可哉可相夜谷

恋ひしくは日長きものを今だにもともしむべしや逢ふべき夜だに

天漢去歳渡代遷閇者河瀬於踏夜深去来

天の川去年の渡りて移ろへば川瀬を踏むに夜ぞ更けにける

自古挙而之服不顧天河津尓年序経去来

いにしへゆあげてし服も顧みず天の川津に年ぞ経にける


天漢夜船■而雖明将相等念夜袖易受将有

天の川夜船を漕ぎて明けぬとも逢はむと思ふ夜袖交へずあらめや

遙■等手枕寐夜鶏音莫動明者雖明

遠妻と手枕交へて寝たる夜は鶏がねな鳴き明けば明けぬとも

相見久■雖不足稲目明去来理舟出為牟■

相見らく飽き足らねどもいなのめの明けさりにけり舟出せむ妻

左尼始而何太毛不在者白栲帯可乞哉戀毛不過者

さ寝そめていくだもあらねば白栲の帯乞ふべしや恋も過ぎねば

万世携手居而相見鞆念可過戀尓有莫國

万代にたづさはり居て相見とも思ひ過ぐべき恋にあらなくに

万世可照月毛雲隠苦物叙将相登雖念

万代に照るべき月も雲隠り苦しきものぞ逢はむと思へど

白雲五百遍隠雖遠夜不去将見妹當者

白雲の五百重に隠り遠くとも宵さらず見む妹があたりは


為我登織女之其屋戸尓織白布織弖兼鴨

我がためと織女のそのやどに織る白栲は織りてけむかも

君不相久時織服白栲衣垢附麻弖尓

君に逢はず久しき時ゆ織る服の白栲衣垢付くまでに

天漢梶音聞孫星与織女今夕相霜

天の川楫の音聞こゆ彦星と織女と今夜逢ふらしも


秋去者川霧天川河向居而戀夜多

秋されば川霧立てる天の川川に向き居て恋ふる夜ぞ多き

吉哉雖不直奴延鳥浦嘆居告子鴨

よしゑやし直ならずともぬえ鳥のうら泣き居りと告げむ子もがも

一年迩七夕耳相人之戀毛不過者夜深往久毛

一年に七日の夜のみ逢ふ人の恋も過ぎねば夜は更けゆくも


天漢安川原定而神競者磨待無

天の川安の川原定而神競者磨待無