和歌と俳句

朝顔

伊勢物語
我ならで 下紐とくな 朝顔の 夕かげ待たぬ 花にはありとも

好忠
おきて見むと 思ひしほどに 枯れにけり 露よりけなる あさがほの花

源氏物語・朝顔
見し折りの つゆ忘られぬ 朝顔の 花の盛りは 過ぎやしるらん

源氏物語・朝顔
秋はてて 霧の籬に むすぼほれ あるかなきかに うつる朝顔

源氏物語・宿り木
よそへてぞ 見るべかりける 白露の 契りかおきし 朝顔の花

後拾遺集 和泉式部
ありとしも たのむべきかは 世中を しらする物は 朝顔の花

匡房
たとふべき かたこそなけれ わぎもこが ねくたれ髪の 朝顔の花

公実
あしかきの すゑより見えし 朝顔は おもかげさらぬ 花にぞありける

匡房
白露の おきて見つれば 程もなく おもかはりする 朝顔の花

国信
山里の しののあせ戸の ひまをあらみ あけてぞみつる 朝顔の花

師頼
朝顔も うらやまれけり 年ふれど まだ花咲かぬ 人のためには

詞花集 六條齋院
神垣に かかるとならば 朝顔も ゆふかくるまで にほはざらめや

顕季
うら風は 波やをるらむ 夜もすがら 思ひ明かしの 朝顔の花

源顕仲
世のうさを おもひ知れとや 朝顔の 咲きてはかなき 色を見すらむ

仲実
あだにのみ 見つつぞ過ぐる 軒ちかき 籬に咲ける 朝顔の花

師時
朝顔の 花のすがたの ゆかしきに 何こは長き 秋の夜ぞとよ

藤原顕仲
秋来れば 霧の籬に たちかくれ ほのかにみゆる 朝顔の花

基俊
たまひこの 露もさながら おきてみむ 今朝うれしげに 咲ける朝顔

永縁
世の中の はかなきうちに はかなきは 暮れをも待たぬ 朝顔の花

隆源
朝顔の はかなき花を いかにして かしこき人の 苑にうゑけむ

京極関白家肥後
いつまでか おきてみるべき ひかげまつ 露にあらそふ 朝顔の花

祐子内親王家紀伊
しののめに おきつつぞ見む 朝顔は ひかげ待つ間の 程しなければ

前斎宮河内
消ゆとみし きのふの露も おきながら おもかはりせぬ 朝顔の花

俊成
咲きてこそ 消ゆとも消えめ 露の間も あなうらやまし 朝顔の花

寂蓮
ありあけの 月は残れる ひかげにも まづかたぶくは 朝顔の花

定家
あかつきの 夢の餘波を 眺むれば これもはかなき あさがほの花

定家
さればこそ とはじと思ひし ふるさとを 咲ける朝顔 つゆもさながら

定家
朝顔よ なにかほどなく うつろはむ 人の心の 花もかばかり

定家
しののめの 別れの露を 契りおきて かたみとどめぬ 朝顔の花

定家
秋風の うら葉にためぬ 白露の しをらでひたす あさがほのはな

実朝
風をまつ 草のはにをく 露よりも あだなる物は あさがほの花