和歌と俳句

詞花和歌集

藤原朝隆朝臣
引く駒にかげをならべて逢坂の関路よりこそはいでけれ

隆縁法師
秋の夜の露もくもらぬ月をみて置きどころなきわがこころかな

大江嘉言
秋の夜の月まちかねておもひやる心いくたび山をこゆらむ

藤原忠兼
秋山の清水はくまじにごりなばやどれる月のくもりもぞする

花山院御製
秋の夜の月にこころのあくがれて雲ゐにものを思ふころかな

源道済
ひとりゐてながむるやどの荻の葉に風こそわたれ秋のゆふぐれ

大江嘉言
荻の葉にそそや秋風ふきぬなりこぼれやしぬる露のしらたま

和泉式部
秋ふくはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらむ

曾禰好忠
み吉野の象山かげにたてる松いく秋風にそなれきぬらむ

藤原顕綱朝臣
荻の葉に露ふきむすぶこがらしの音ぞ夜寒になりまさるなる

源兼昌
夕霧にこずゑもみえずはつせ山いりあひの鐘の音ばかりして

赤染衛門
秋の野の花みるほどの心をばゆくとやいはむとまるとやいはむ

六條齋院
神垣にかかるとならば朝顔もゆふかくるまでにほはざらめや

隆源法師
ぬしやたれ知る人なしに藤袴みれば野ごとに綻びにけり

周防内侍
朝な朝な露おもげなるが枝に心をさへもかけてみるかな

敦輔王
の葉に言とふ人もなきものを来る秋ごとにそよとこたふる

曾禰好忠
秋の野のくさむらごとに置く露は夜なく蟲のなみだなるべし

永源法師
八重葎しげれる宿は夜もすがら蟲の音きくぞとりどころなる

和泉式部
なくのひとつ聲にも聞こえぬはこころごころにものやかなしき

橘為仲朝臣
ふるさとにかはらざりけり鈴虫鳴海の野邊のゆふぐれのこゑ