あかつきに なりにけらしな わがかどの 刈田に鴫も 鳴きて立つなり
冬寒み のちにしぼむと いふなれど 変はらざりけり 松の緑は
わが友と われぞいふなる 呉竹の うきふししげき みともなれれば
根もなくて いはほの上に むす苔は かみをおほへる ここちこそすれ
沢にすむ 鶴の鳴く声 いたづらに 空にきこえぬ 嘆きをぞする
うばたまの 黒髪山の いただきに 雪もつもらば 白髪とや見む
吉野なる おほかはみつの よそほひは 世々にもさらに 絶えじとぞ思ふ
ともかくも 人にいはての 野辺にきて ちぐさの花を ひとり見るかな
守る人も まだ絶えなくに かはぐちの 関のくきぬき はや朽ちにけり
おもふこと 橋柱にぞ かきつけて むかしの人は くらゐましける
夜もすがら おほしまあらし おろすなり 高砂舟は 今ぞ出づべき
暮れぬさき 山をいでむと 急ぐ間に しをりをせでも 越えにけるかな
かへりこむ こともおぼれて おもほえず けふの別れを 惜しむ涙に
春来ても 訪ふ人もなき 山里は よとともにこそ さびしかりけれ
やどもせに あさこと稲を 干すよりは はてを結ひてぞ 掛くべかりける
見しやどの 庭は浅茅に 荒れにけり となりの笛の 音ばかりして
うつつにも 幻の世と 思ふ身に また夢をさへ 何と見るらむ
置く露を わが魂と 知らねばや 儚き世をも 厭はざるらむ
あきらけき 世にはうれしく あひながら 憂はれせぬ 身をいかにせむ
君が経む 齢の程を かぞふれば 八百万よを 千度なりけり
金葉集・春
衣手に 晝はちりつる 櫻花 夜は心に かかるなりけり
詞花集・秋
ぬしやたれ 知る人なしに 藤袴 みれば野ごとに 綻びにけり
千載集・秋
いづこにも 月は分かじを いかなれば さやけかるらん 更級の山