湯原王
月詠の光りに来ませあしひきの山きへなりて遠からなくに
安倍虫麻呂
雨隠る御笠の山を高みかも月の出で来ぬ夜はくたちつつ
大伴坂上郎女
ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ
大伴坂上郎女
山の端のささら愛壮士天の原門渡る光り見らくしよしも
湯原王
天にます月読壮士賄はせむ今夜の長さ五百夜継ぎこそ
湯原王
はしきやし間近き里の君来むとおほのびにかも月の照りたる
藤原八束
待ちかねて我がする月は妹が着る御笠の山に隠りてありけり
人麻呂歌集作者未詳
天の原雪なき宵にぬばたまの夜渡る月の入らまく惜しも
古今集 千里
月みればちぢにものこそかなしけれわが身ひとつの秋にはあらねど
古今集 忠岑
久方の月の桂もあきはなほもみぢすればやてりまさるらむ
古今集 元方
秋の夜の月の光しあかければくらぶの山もこえぬべらなり
後撰集 よみ人しらず
袖にうつる月の光は秋ごとにこよひかはらぬ影とみえつつ
後撰集 深養父
秋の海にうつれる月を立ちかへり浪はあらへど色もかはらず
後撰集 貫之
衣手はさむくもあらねど月影をたまらぬ秋の雪とこそ見れ
源公忠
池水の もなかに出でて 遊ぶ魚の 数さへ見ゆる 秋の夜の月
拾遺集元輔
飽かずのみ思ほえむをばいか ゞせんかくこそは見め秋の夜の月
公実
山の端を よこぎる雲の 絶え間より まちいづる月の めづらしきかな
匡房
真菰かる 淀の澤水 深けれど 底まで月の 影ぞみえける
国信
あらしふく 生駒の山の 雲はれて なかゐの浦に すめる月影
師頼
天の原 空ゆく月を ながむれば 秋は寝ぬ夜の 数ぞつもれる
源顕仲
月みれば うきよのなかに つくづくと 思ひも知らで すむこころかな
顕季
出づるより 入る山の端の 麓まで こころをぞ遣る 秋の夜の月
顕季
秋はいま 半ばも今は 過ぎぬるに さかりと見ゆる 夜半の月かな
金葉集 俊頼
すみのぼる心や空をはらふらむ雲の塵ゐぬ秋の夜の月
仲実
もろともに 見るとはなしに ゆきかへり 月に棹さす 舟路なりけり
師時
雲のなみ あらふなるべし 天の原 よわたる月の 影きよくして
藤原顕仲
鴎ゐる 入江の水は 深けれど 底まで月の 影はすみけり
基俊
秋の夜は 閨にさしいる 月影の あかぬにあくる 山の端ぞ憂き
永縁
秋の夜の 月は曇らぬ ますかがみ 影をうかべぬ 水はあらじな
隆源
いづくとも 月はわかじを いかなれば さやけかるらむ 更科の山
京極関白家肥後
つきかげは こころにいれて をしめども おもひくまなく かたぶきにけり
祐子内親王家紀伊
ひさかたの つきをはるかに ながむれば やそしまめぐり みるここちする
前斎宮河内
やまおろしに このはおちつむ たにかはの そこにもすめる あきのよのつき
詞花集 藤原朝隆朝臣
引く駒にかげをならべて逢坂の関路よりこそ月はいでけれ
詞花集 隆縁法師
秋の夜の露もくもらぬ月をみて置きどころなきわがこころかな
詞花集 大江嘉言
秋の夜の月まちかねておもひやる心いくたび山をこゆらむ
詞花集 藤原忠兼
秋山の清水はくまじにごりなばやどれる月のくもりもぞする
詞花集 花山院御製
秋の夜の月にこころのあくがれて雲ゐにものを思ふころかな
千載集 俊頼
こがらしの雲吹きはらふ高嶺よりさえても月の澄みのぼるかな
千載集 藤原実定
月見ればはるかに思ふ更級の山も心のうちにぞありける
千載集 俊頼
あすも来む野路の玉川萩こえて色なる波に月やどりけり
千載集 崇徳院御歌
玉寄する浦わの風に空晴れてひかりをかはす秋の夜の月
千載集 藤原公能
さ夜ふけて富士の高嶺に澄む月はけぶりばかりやくもりなるらん
千載集 俊成
いしばしる水の白玉かず見えて清滝川に澄める月かな
千載集 清輔
塩竈の浦吹く風に霧晴れて八十島かけて澄める月かげ
千載集 俊頼
思ひぐまなくても年の経ぬるかな物いひかはせ秋の夜の月
千載集 基俊
山の端にますみの鏡掛けたりと見ゆるは月の出づるなりけり
千載集 藤原道経
秋の夜や天の川瀬はこほるらん月のひかりのさえまさるかな
千載集 俊恵
ながめやる心のはてぞなかりける明石の沖に澄める月かげ
千載集 藤原親盛
浅茅原葉末にむすぶ露ごとにひかりを分けてやどる月かげ
千載集 紫式部
おほかたの秋のあはれを思ひやれ月に心はあくがれぬとも
寂蓮
月といへば 姨捨山の 秋の空 ながむるやどは 更科の里
新古今集 式子内親王
ながめわびぬ秋より外の宿もがな野にも山にも月やすむらん
新古今集 慈円
ふけゆかばけぶりもあらじしほがまのうらみなはてそ秋の夜の月
新古今集 良経
深からぬ外山のいほのねざめだにさぞな木の間の月はさびしき
新古今集 家隆
秋の夜の月やをじまのあまのはら明がたちかき沖の釣舟
新古今集 慈円
憂き身にはながむるかひもなかりけり心に曇る秋の夜の月