朝髪の思ひ乱れてかくばかり汝姉がふれぞ夢に見えける
にほ鳥の潜く池水心あらば君に我が恋ふる心示さね
外に居て恋ひつつあらずは君が家の池に住むといふ鴨なあらましを
うち渡す竹田の原に鳴く鶴の間なく時なし我が恋ふらくは
早川の瀬に居る鳥のよしをなみ思ひてありし我が子はもあはれ
我が背子に恋ふれば苦し暇あらば拾ひて行かむ恋忘れ貝
我が背子が着る衣薄し佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで
猟高の高円山を高みかも出で来る月の遅く照るらむ
ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ
山の端のささら愛壮士天の原門渡る光り見らくしよしも
故郷の明日香はあれどあをによし奈良の明日香を見らくしよしも
月立ちてただ三日月の眉根掻き日長く恋ひし君に逢へるかも
かくしつつ遊び飲みこそ草木すら春は咲きつつ秋は散りゆく
木綿畳手向けの山を今日越えていづれの野辺に廬りせむ我れ
ますらをの高円山に迫めたれば里に下り来るむざさびぞこれ
我が背子が見らむ佐保道の青柳を手折りてだにも見むよしもがな
うち上る佐保の川原の青柳は今は春へとなりにけるかも