千載集・夏
けさかふる 蝉の羽衣 着てみれば たもとに夏は たつにぞありける
やみなれど 月の光ぞ さしてける 卯の花咲ける 小野のほそみち
千載集・夏
あふひ草 照る日は神の 心かは 影さすかたに まづなびくらむ
ひとこゑの きかまほしさに ほととぎす 思はぬ山に 旅寝をぞする
めづらしき 君が淀野の あやめ草 ひき比ぶべき もののなきかな
雨ふれど 急ぎて取らむ 今日過ぎば 山田の早苗 老いもこそすれ
さつき闇 ともしする夜は われもしか めをあはせても あかしつるかな
千載集・夏
いとどしく しづの庵の いぶせきに 卯の花くたし さみだれぞふる
むかし見し 人の形見と 折りつれば 花たちばなに 袖ぞしみぬる
ゆく蛍 夏の夜すがら いかにして けぶりもたえず もえわたるらむ
さらぬだに 夏はふせやの 住み憂きに 蚊火のけぶりの ところせきかな
うきよには 消えなば消えね はちす葉に やどらば露の 身ともなりなむ
つちさけて 照る日も知らず 消えせぬは 氷室は夏の ほかにやあるらむ
いかなれば ななくりの湯の 湧くがごと いづる泉の 涼しかるらむ
水底の 清き流れに 斎串たて 祓ふることを 神うけつらし