明けぬなり 鴫のはねがき かぞふれば かけの垂れ尾の 長き夜なれど
宮木ひく 人もすさへぬ 松が枝は 谷の底にて 年を経にけり
ことし生ひの 籬のもとの 呉竹も 秋は夜長く なりやしぬらむ
続後撰集・雑歌
奥山の いはねが上の 苔莚 たちゐるくもの 跡だにもなし
新勅撰集・雑歌
いにしへを おもひいづるの かなしきは なけどもそらに しるひとぞなき
白雲の 絶え間に見ゆる 水鳥の み鴨の色の 春の山の端
水無瀬川 落ち来る水の いはふれて 折る人なしに 波ぞ花咲く
むかし見し 道たづぬれど なかりけり ぬるで交じりの 猪名のふしはら
なにしおはば なこそといふも わぎもこに われけふ越さば ゆるせ関守
夜はくらし 妹はた恋ひし をはた田の いたたの橋を いかが踏ままし
月影に 四方の島辺を 見渡せば 潮もかなひぬ 船出せよ君
初雁の こころそらなる 旅寝には わがふるさとぞ 夢に見えける
秋霧の たちわかれぬる きみにより 晴れぬ思ひに まどひぬるかな
つま木樵る 隠れ家にする 山里に いかでか月の たづね来つらむ
こきたれて 雨は降り来ぬ わがやどの いほしろ小田を 刈りみたるころ
おいらくの 影みるたびに ますかがみ なほ昔こそ 恋ひしかりけれ
宵の間に 枕さだめぬ うたたねの 夢に夢をも あはせつるかな
世の中を 何なげくらむ 山川の うたかためぐる 程と知らずや
千載集・雑歌
唐国に 沈みし人も わがごとく 三代まで逢はぬ 歎きをぞせし
千載集・賀
奥山の やつをの椿 君が世に いくたびかげを 変へむとすらむ
続後撰集・恋
さくらあさの をふの下草 したにのみ こふれば袖ぞ 露けかりける