和歌と俳句

続後撰和歌集

雑歌

家に百首歌よみ侍りける時 後京極摂政前太政大臣良経
風のおとも 神さびまさる ひさかたの あまのかぐ山 いく世へぬらむ

堀河院に百首歌奉りける時 権大納言公実
神さぶる かつらぎ山の 高ければ 朝ゐる雲の はるるまぞなき

権中納言国信
ひかげはふ しげみが下に こけむして みどりのふかき 山のおくかな

基俊
おく山の いはねがうへの こけむしろ たちゐる雲の 跡だにもなし

紫式部
影みても うきわがなみだ おちそひて かごとがましき 滝の音かな

前中納言定家
をとにのみ ききこし滝も 今日ぞ見る ありてうき世の 袖やをどると

名所歌めしけるつひでに 後鳥羽院御製
布引の 滝のしら糸 うちはへて たれ山風に かけてほすらん

従二位頼氏
天の河 雲のみをより ゆく水の あまりておつる 布引の滝

大炊御門右大臣公能
かはかみに をれふす芦の 乱れ葉に しめゆひかくる 岸の白浪

基俊
吉野川 空やむらさめ ふりぬらん 岩間に滝つ 音とよむなり

順徳院御製
飛鳥川 ななせの淀に 吹く風の いたづらにのみ ゆく月日かな

よみ人しらず
初瀬川 ながるるみをの せをはやみ ゐでこす波の 音ぞさやけき

勝命法師
いくとせか 高瀬の淀の こも枕 かりそめながら むすびきぬらん

赤人
あしべより ふきくる風に しら波の 花とのみこそ みえわたりけれ

よみ人しらず
住吉の えなつにたちて みわたせば むこの浦より いづる舟人

権中納言国信
つなてひく なだの小舟や いりぬらん 難波の田鶴の 浦わたりする

前大納言為家
みちのくの まがきの島は 白妙の 浪もてゆへる 名にこそありけれ

覚仁法親王
あはれなる あまのとまやの すまひかな みちくるしほの 程もなき世に

前太政大臣実氏
和歌の浦や しほひのかたに すむ千鳥 むかしの跡を みるもかしこし

律師経円
くちはつる ながらの橋の 跡にきて むかしをとほく こひわたるかな

兵部卿有教
ひとりのみ われやふりなむ つのくにの 長柄の橋は 跡もなきよに

従三位行能
おほともの みつの松原 まつことの ありとはなしに おいぞかなしき

前参議忠定
むかし見し かたえもいかに なりぬらん 身はいたづらに おふのうらなし

延喜十四年女四宮の屏風に 貫之
あたらしき 年とはいへど しかすがに わが身ふりゆく 今日にぞありける

延喜廿一年 京極御息所春日社にもうで侍りける日 大和国のつかさにかはりてよめる 躬恒
年ごとに 若菜つみつつ 春日野の 野守もけふや 春をしるらん

枇杷左大臣はじめて大臣になりて侍りけるよろこびにまかりて 貞信公忠平
折りてみる かひもあるかな 梅の花 ふたたび春に あふここちして

返し 枇杷左大臣仲平
うもれ木に 花さく春の なかりせば まぢかき枝も 誰かおらまし

貫之 土佐任はててのぼり侍りける道にて なぎさの院の梅花を見てよみ侍りける よみ人しらず
君こひて 世をふるやどの 梅の花 むかしの歌にぞ なほにほひける

好忠
あさみどり 山は霞に うづもれて あるかなきかの 身をいかにせむ

赤染衛門
もろともに 見る世もありし 花桜 人づてにきく 春ぞかなしき