千載集・雑歌
数ならぬ心に身をばまかせねど身にしたがふは心なりけり
つれづれとながめふる日は青柳のいとど憂き世に乱れてぞふる
今日はかく引きけるものをあやめ草わがみ隠れに濡れわたりつる
妙なりや今日は五月の五日とて五つの巻にあへる御法も
新古今集・夏
何ごととあやめはわかで今日もなほ袂に余るねこそ絶えせね
新勅撰集・雑歌
真木の戸もささでやすらふ月影になにをあかずと叩く水鶏ぞ
白露は分きても置かじ女郎花心からにや色の染むらむ
千載集・恋
忘るるは憂き世の常と思ふにも身をやるかたのなきぞわびぬる
ましもなほ遠方人の声かはせわれ越しわぶるたごの呼坂
心あてにあなかたじけな苔むせる仏の御顔そとは見えねど
千載集・秋
おほかたの秋のあはれを思ひやれ月に心はあくがれぬとも
埋れ木の下にやつるる梅の花香をだに散らせ雲の上まで
九重に匂ふを見れば桜がり重ねて来たる春の盛りか
新古今集・雑歌
神代にもありもやしけむ桜花今日の挿頭に折れる例は
新勅撰集・賀
菊の露若ゆばかりに袖触れて花の主に千代は譲らむ
新古今集・冬
ふればかくうさのみまさる世を知らで荒れたる庭に積もる初雪
新古今集・哀傷
暮れぬまの身をば思はで人の世の哀を知るぞかつははかなき
新古今集・哀傷
誰か世にながらへて見む書きとめし跡は消えせぬ形見なれども
千載集・冬
水鳥を水のうへとやよそに見む我も浮きたる世を過ぐしつつ
千載集・雑歌
いづくとも身をやるかたの知られねば憂しと見つつも永らふるかな
新古今集・夏
誰が里も訪ひやも来ると郭公こころのかぎり待ちぞわびにし
新古今集・賀
曇なく千年にすめる木の面にやどれる月のかげのもどけし
新勅撰集・冬
ことわりの しぐれのそらは 雲間あれど ながむるそでぞ 乾くよもなき
新勅撰集・恋
ただならじ とばかりたたく くひなゆゑ あけてはいかに くやしからまし
新勅撰集・雑歌
うきねせし みづのうへのみ こひしくて かものうはげに さえぞおとらぬ