和歌と俳句

新古今和歌集

正三位季経
風さゆるとしまが磯のむらちどり立居は波の心なりけり

藤原雅経
はかなしやさても幾夜か行く水に數かきわぶるのひとり寝

河内
水鳥のかもの浮き寝のうきながら浪のまくらに幾夜経ぬらむ

湯原王
吉野なるなつみの川の川淀に鴨ぞ鳴くなる山かげにして

能因法師
閨のうへに片枝さしおひ外面なる葉廣柏に降るなり

法性寺入道前関白太政大臣忠通
さざなみや志賀の唐崎風さえて比良の高嶺に霰降るなり

人麻呂
矢田の野に浅茅色づくあらち山嶺のあわ雪寒くぞあるらし

瞻西上人
つねよりも篠屋の軒ぞうづもるる今日は都に初雪や降る

返し 藤原基俊
降る雪にまことに篠屋いかならむ今日は都にあとだにもなし

權中納言長方
初雪のふるの神杉うづもれてしめゆふ野邊は冬ごもりせり

紫式部
ふればかく憂さのみまさる世を知らで荒れたる庭に積もる初雪

式子内親王
さむしろの夜半の衣手さえさえて初雪しろし岡のべの松

寂蓮法師
降り初むる今朝だに人の待たれつるみ山の里の雪の夕暮

皇太后宮大夫俊成
今日はもし君もや訪ふとながむれどまだ跡もなき庭のかな

返し 後徳大寺左大臣実定
今ぞ聞く心は跡もなかりけり雪かきわけて思ひやれども

前大納言公任
白山に年ふる雪やつもるらむ夜半にかたしく袂さゆなり

刑部卿範兼
明けやらぬねざめの床にきこゆなり籬の竹の雪の下折れ

高倉院御歌
音羽山さやかにみする白雪を明けぬとつぐる鳥のこゑかな

藤原家経朝臣
山里は道もや見えずなりぬらむ紅葉とともに雪の降りぬる

藤原國房
寂しさをいかにせよとて岡邊なる楢の葉しだり雪の降るらむ