前大僧正覺忠
神無月木々の木の葉は散りはてて庭にぞ風のおとはきこゆる
藤原清輔朝臣
柴の戸に入日の影はさしながらいかにしぐるる山邊なるらむ
藤原隆信朝臣
雲晴れて後もしぐるる柴の戸や山風はらふ松のしたつゆ
よみ人しらず
神無月しぐれ降るらし佐保山のまさきのかづら色まさりゆく
中務卿具平親王
こがらしの音に時雨を聞きわかで紅葉にぬるる袂ぞと見る
中納言兼輔
時雨降る音はすれども呉竹のなどよとともに色もかはらぬ
能因法師
時雨の雨染めかねてけり山城の常磐の杜のまきの下葉は
清原元輔
冬を浅みまだき時雨とおもひしを堪へざりけりな老の涙も
後白河院御製
まばらなる柴のいほりに旅寝して時雨に濡るる小夜衣かな
前大僧正慈円
やよ時雨もの思ふ袖のなかりせば木の葉の後に何を染めまし
後鳥羽院御製
深緑あらそひかねていかならむ間なくしぐれのふるの神杉
人麻呂
時雨の雨まなくし降ればまきの葉も争ひかねて色づきにけり
和泉式部
世の中に猶もふるかなしぐれつつ雲間の月のいでやと思へど
二條院讃岐
折こそあれながめにかかる浮雲の袖も一つにうちしぐれつつ
西行法師
秋篠やとやまの里やしぐるらむ生駒のたけに雲のかかれる
道因法師
晴れ曇り時雨は定めなきものをふりはてぬるは我が身なりけり
源具親
今はまた散らでもまがふ時雨かなひとりふりゆく庭の松風
俊恵法師
み吉野の山かき曇り雪ふれば麓の里はうちしぐれつつ
入道左大臣実房
まきのやに時雨の音のかはるかな紅葉や深く散りつもるらむ
二條院讃岐
世にふるは苦しきものをまきのやにやすくも過ぐる初時雨かな