今宵かすたなばたつめに身をかへて明けはかへらむことをこそおもへ
七夕の人にものかす今宵さへ家にはいたくいそがざらなむ
人知れず思ふ心は秋萩の下葉の色にいでぬべらなり
吹く風と疎まざらなむ秋の夜のえぞむつまじきしるべなりける
人知れず越ゆとおもひしあしひきの山したみずにかげはみえつつ
川霧のたちし隠せば水底にかげ見る人も有らしとぞおもふ
をみなへし思ひなわびそもろともにつきもすくさすむれてとふべし
白雲のうちにまがひてゆく雁も声はかくれぬものにざりける
いで人のおもふといひし言の葉はしぐれとともに散りにけらしも
初時雨ふりしそむれば言の葉も色のみまさるころとこそみれ
初時雨ふるに濡れつる我が袖のひるまばかりを見るぞわびしき
新古今集
時雨ふる音はすれどもくれたけのなどよとともに色もかはらぬ
墨染めの衣よなよな隔てつつおぼつかなくや秋を過ぐさむ
神無月ふたつあるとし時雨にはひともと菊ぞ色こかりける
新古今集
菊の花手折りては見じ初霜の置きながらこそ色まさるころ
紫のひともと菊はよろづよを武蔵野にこそたのむべらなれ
けふ掘りて雲居にうつす菊の花あまつ星とやあすよりは見む
唐にしき洗ふと見ゆる竜田川やまとのくにの幣にぞありける
うたた寝のうつつにものの悲しきは昔のかへを見ればなりけり
むすぶ緒の解けてみたればうばたまの夜の衣をかへすまとしれ