和歌と俳句

藤原兼輔

たちよらむ岸も知られずうつせかひむなしきとこのなみのさわぎに

新古今集・哀傷
なき人を忘れわびなば忘れ草おほかる宿にやどりをぞする

かたときも見てなぐさめよ昔より憂れへ忘るる草といふなり

今はとて惜しきながらも藤衣脱ぎ捨ててけることのわびしさ

藤衣うきをかぎりにはつれつつ涙のたまを貫くぞ悲しき

かはりなむ世にはいかでか住まふべきおもひやれどもゆかぬ心を

秋深き色かはるらむ菊の花きみがよはひのちよしとまらば

落ちかはる萩の下葉の下にのみ秋うきものとわれ泣きそへむ

人の世のおもふにかなふものならば我が身は君に遅れざらまし

後撰集・慶賀哀傷
泣く涙ふりにしとこの衣手はあらたまれどもかはらざりけり

みやこにはみるべき人もなきものをつねにおもひて春やきぬらむ

後撰集・慶賀哀傷
山科の宮の草木と君ならば我も雫にぬるばかりなり

新古今集・哀傷
桜ちる春の暮にはなりにけりあやめもしらぬながめせしまに

春深く散りかふ花を枝にみてとりあへぬものは涙なりけり

ひとへだにきるはわびしき藤衣かさなる秋をおもひやらなむ

あしひきの山辺を見れば白雲のたちゐたゆたひものをこそおもへ

あさゆふの身にはそへどもあらたまの年つもりゆく我ぞ悲しき

年ごとにあひくる年をかぞふれば我は翁になりぞしにける

年ごとになきつる雁と聞きし間に我はひたすら老ぞしにける

命あらばあらばあらばと思ふまに身のゆくすゑを誰かしるらむ

後撰集・雑歌
人の親の心は闇にあらねども子をおもふ道にまどひぬるかな

子のために残す命を捨てしがな老いてさきだつこひかくるべく

新勅撰集・賀
くれたけの 世々のみやこと きくからに きみはちとせの うたがひもなし

小倉百人一首
みかのはら わきてながるる いづみ川 いつみきとてか 恋しかるらむ