新古今集・冬
柴の戸に 入日の影は さしながら いかにしぐるる 山邊なるらむ
むらさきの 雲間の星と 見ゆるかな うつろひのこる 白菊の花
過ぎにける わが盛りをぞ 思ふべき うつろふ菊は またも咲かなむ
出づるより 冴えてぞ見ゆる 木枯らしの 紅葉ふきおろす 山の端の月
新古今集・冬
おのづから 音するものは 庭の面に 木の葉吹きまく 谷の夕風
山里に 散るもみぢ葉の くれなゐは ふむ人もなき ものにぞありける
踏みしだき ゆかまくをしき もみぢ葉に みち吹きわけよ 山の下風
ふるからに 谷の小川の もみづるは 木の葉や水の 時雨なるらむ
朝まだき 初霜しろし うへしこそ 尾花かりしく 床は冴ええけれ
磯辺には 霰ふるらし あま人の かづくしらたま 数やそふらむ
吉野山 初雪こよひ 降りにけり 明くれど消えぬ 峰の横雲
千載集・冬
消ゆるをや 都の人は をしむらん 今朝山里に はらふ白雪
きのふけふ 富士の高嶺は かき暮れて 清見が関に 降れる初雪
おほとりの はがひの山の 霜のうへに 重ねて見ゆる けさの初雪
新勅撰集・冬
雲井より ちりくるゆきは ひさかたの 月のかつらの はなにやあるらん
よをわたる 心の内ぞ あはれなる 雪ふみわけて いづるやま人
いづかたへ あに漕ぎいでて なごのあまの 雪をかづきて かへるなるらむ
世の中の うきたびごとに 思ひたつ 山路も見えず 雪ふりにけり
朝まだき しのぶもぢずり うちはらひ 安達が原の 雪見るや誰
いかばかり 降り積みぬらむ あらち山 いはのかけぢに くづれ落つる雪