和歌と俳句

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舎人娘子
大口の真神の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに

大伴旅人
沫雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも

若櫻部君足
天霧らし雪も降らぬかいちしろくこのいつ柴に降らまくを見む

巨勢宿奈麻呂
我がやどの冬木の上に降る雪を梅の花かとうち見つるかも

小治田東麻呂
ぬばたまの今夜の雪にいざ濡れな明けむ朝に消なば惜しけむ

忌部黒麻呂
梅の花枝にか散ると見るまでに風に乱れて雪ぞ降り来る

大伴家持
今日降りし雪に競ひて我がやどの冬木の梅は花咲きにけり

大伴坂上郎女
松蔭の浅茅の上の白雪を消たずて置かむことはかもなき

光明皇后御歌
我が背子とふたり見ませばいくばくかこの降る雪の嬉しくあらまし

他田広津娘子
真木の上に降り置ける雪のしくしくも思ほゆるかもさ夜問へ我が背

大伴家持
沫雪の庭に降りしく寒き夜を手枕まかずひとりかも寝む

古今集 貫之
雪ふれば 冬ごもりせる草も木も 春に知られぬ花ぞさきける

古今集 紀あきみね
白雪のところもわかずふりしけば いはほにもさく花とこそ見れ

古今集 是則
み吉野の山の白雪つもるらし ふるさと寒くなりまさるなり

古今集 興風
浦ちかくふりくる雪は 白浪の末のまつ山こすかとぞ見る

古今集 忠岑
み吉野の山の白雪ふみわけて入りにし人の おとづれもせぬ

古今集 忠岑
白雪のふりてつもれる山ざとは すむ人さへや思ひきゆらん

古今集 躬恒
雪ふりて人もかよはぬ道なれや あとかたもなく思ひきゆらん

古今集 是則
あさぼらけありあけの月と見るまでに 吉野のさとにふれる白雪

貫之
木の間より 風にまかせて 降る雪を 春来るまでは 花かとぞみる

貫之
しろたへに 雪のふれれば 小松原 色のみどりも かくろへにけり

貫之
雪ふれば 疎きものなく 草も木も ひとつゆかりに なりぬべらなり

貫之
くさきにも はなさきにけり ふる雪や 春よりさきに 花となるらむ

貫之
松が枝に つるかとみゆる 白雪は つもれる年の しるしなりけり

後撰集 よみ人しらず
しら山に雪ふりぬればあとたえて今は越路に人もかよはず

後撰集 よみ人しらず
ふるさとの雪は花とぞふりつもるながむる我も思ひきえつつ

後撰集 よみ人しらず
おしなべて雪のふれればわがやどの杉を尋ねてとふ人もなし

後撰集 よみ人しらず
ふる雪はきえてもしばしとまらなん花ももみぢも枝になきころ

拾遺集 伊勢
あしひきの山ゐにふれる白雪はすれる衣の心地こそすれ

拾遺集 貫之
夜ならば月とぞ見ましわがやどの庭しろたへにふれる白雪

拾遺集 能宣
わがやどの雪につけてぞふるさとの吉野の山は思ひやらるる

拾遺集 貫之
白雪のふりしく時はみよしのの山した風に花ぞちりける

拾遺集 兼盛
人しれず春をこそまてはらふべき人なきやどにふれる白雪

拾遺集 貫之
年の内に 積もれる罪は かきくらし 降る白雪と 共に消えなん

金葉集 和泉式部
待つ人の今も来たらばいかがせむ踏ままく惜しき庭の雪かな

千載集 経信
朝戸あけて見るぞさびしき片岡の楢の広葉に降れる白雪

源顕仲
今朝見れば 袖ふりはへて 昨日こし 吉野の山は 雪ふりにけり

祐子内親王家紀伊
しらゆきの ふりしきぬれば こけむしろ あをねがみねも みえずなりゆく

京極関白家肥後みちもなく つもれるゆきに あとたえて ふるさといかに さびしかるらむ

金葉集 源頼綱朝臣
ころもでに余呉の浦風さえさえてこだかみ山に雪降りにけり

金葉集 前齋院尾張
白波の立ちわたるかと見ゆるかな濱名の橋に降れる白雪

金葉集 皇后宮摂津
降る雪に杉の青葉も埋もれてしるしも見えず三輪の山もと

金葉集 中納言女王
磐代の結べる松に降る雪は春も解けずやあらむとすらむ

金葉集 増基法師
濱風に我が苔衣ほころびて身にふりつもる夜半の雪かな

俊成
そらはれてちりくる雪はひさかたの月の桂の花にやあるらむ

俊成
まきもくのたま木の宮に雪ふればさらに昔のあしたをぞ知る

俊成
紫の庭の雪には猶しかじみなしろたへのみよしのの山

俊成
とふ人もさらでもあらじ山里にふかくも道を埋む雪かな

西行
木の間洩る 月の影とも 見ゆるかな はだらに降れる 庭の白雪

西行
立ち昇る 朝日の影の さすままに 都の雪は 消えみ消えずみ

西行
枯れはつる 萱が上葉に 降る雪は さらに尾花の 心地こそすれ

西行
たゆみつつ 橇の早緒も 付けなくに 積りにけりな 越の白雪

寂蓮
われも待ち 人をもとはむ 道ぞなき 雪のあしたの 小野の山里

寂蓮
高円の をのへの里に 雪深し なほふりゆかむ あとをこそ思へ

寂蓮
すみわびぬ 我だに人を たづねばや とやまのすゑの 雪の通ひ路

寂蓮
誰が里の 軒端やけぬと いとふらむ 雲にあまぎる 雪のこずゑを

寂蓮
雪ふれば 道もたえなむ 山里を しぐるるまでは 訪ふ人もがな

寂蓮
あとたゆる 山路の雪を あはれとも 心ばかりぞ 我を訪ひける

寂蓮
降る雪や こずゑに高く つもるらむ 声よわりゆく 峰の松風

定家
老いはつる谷の松が枝埋もれて雪さへいとどふりにけるかな

定家
海士小舟ややたづさはる芦の葉に心もとまる今朝のゆきかな

定家
さびしげのふかきみ山の松ばらやみねにもをにも雪はつもりて

定家
あとたえて雪もいくよかふりぬらむをののえくちしいはのかけみち

定家
いかにせむ雪さへ今朝はふりにけり笹分けし野の秋の通ひ路

定家
山深きまきの葉しのぐ雪を見てしばしはすぎむ人とはずとも

定家
浦風の 吹上の松の うれこえて あまぎる雪を 波かとぞ見る

定家
空とぢて またこの暮の いかならむ 日ごろの雪に 跡は絶えにき

定家
さえのぼる 御階のさくら ふりて 春秋見する 雲のうへの月

定家
山人の ひかりたづねし 跡やこれ み雪さえたる 志賀のあけぼの

新古今集 定家

待つ人の ふものと道は 絶えぬらむ 軒端の杉に 雪おもるなり

定家
雪の内は なべてひとつに なりにけり 枯野の色も たのむ垣根も

定家
春日山 おほくの年の 雪ふりて 春の朝日は 神も待つらむ

定家
ふりそめて下葉おもりし松が枝をこずゑもたへず積るしら雪

定家
雪のもる 須磨の関屋の 板びさし 明けゆく月も ひかりとめけり

定家
ながめやる衣手さむく降る雪にゆふやみしらぬ山のはのつき

新古今集 定家
駒とめて袖うちはらふかげもなしさののわたりの雪のゆふぐれ

定家
白妙にたなびく雲を吹きまぜて雪にあまぎる峯のまつかぜ

定家
庭のおもにきえずはあらねど花と見る雪は春までつぎて降らなむ

定家
とどむべき 人も訪ひこぬ 夕ぐれの まがきを山と 積もる白雪

定家
林あれて秋のなさけも人とはず紅葉をたきしあとの白雪

定家
大伴の御津の濱風ふきはらへ松とも見えじうづむ白雪

定家
けさはまた跡かき絶ゆる水ぐきの岡のやかたの雪のふりはも

定家
下たえず梢折れふすよなよなに松こそうづめみねのしらゆき

定家
鳰のうみやみぎはの外の草木までみるめなぎさの雪の月影

定家
みよし野のみ雪ふりしくさとからはときしもわかぬ有明の空

定家
おいらくは雪のうちにぞ思ひしるとふ人もなく行く人もなし

定家
いたづらに松の雪こそ積るらめ我が踏み分けしあけぼのの山

定家
いそのかみふる野は雪の名なりけりつもる日数を空に任せて

定家
夢かとも里の名のみやのこるらむ雪もあとなきをのの浅茅生

定家
たればかり山路をわけてとひくらむまだ夜は深き雪の景色に