和歌と俳句

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雪の香に爐邊の嬰兒を抱きて出ぬ 蛇笏

廃運河何に波立つ雪の中 秋櫻子

雪空の針金の雪離れざる 青畝

虻のごととびまはりゐる屋根の雪 青畝

振る雪に胸裏の声の追ひつけず 楸邨

雪敷ける町より高し小名木川 波郷

雪つむや亡き兒の形見歳古りて 蛇笏

龍尻の渦しづかにて雪の中 蛇笏

山たかく湯瀧は雪の新しく 蛇笏

潮させば運河は澄めり牡丹雪 秋櫻子

奥の雪つまごの跡のふかぶかと 青畝

束稲の雪紫に見ゆるなり 青畝

墓の雪つかみ啖いて若者よ 三鬼

雪はすべてわが洗礼に降りくるか 静塔

雪片と耶蘇名ルカとを身に着けし 静塔

積むや雪無言女佛の息荒び 鷹女

雪来るや群嶺駒ケ嶽の余威をかり たかし

駒ケ嶽の雪仰ぎ寝覚ノ床を見下ろしぬ たかし

久遠寺の夜をさしまねく雪の鐘 蛇笏

雪の果征旅の二兒は記憶のみ 蛇笏

黒き地や身を降る雪の打ちつけに 草田男

杭一本雪降る条々かぎりなし 草田男

ただに素顔の青流沿へり深雪道 草田男

深雪降らしていま憩ふ空月と星 草田男

たべ物の切口ならび夜の深雪 草田男

いつも見る景色が雪をかうむりて 草城

百千の土管口あけ雪降れり 波郷

俯伏せに甕押しならび雪降れり 波郷

雪の家の死者にひびきて薪割る音 龍太

雪の死顔世にけんらんと娘を遺し 龍太

幹たかく葬後深雪の夕ながし 龍太

絶対安静降りくる雪に息あはず 多佳子

生るはよし静かなる雪いそぐ雪 多佳子

雪まぶしひとと記憶のかさならず 多佳子

みつみつと雪積る音わが傘に 多佳子

落葉松を仰げば粉雪かぎりなし 多佳子

雪原や千曲が背波尖らして 多佳子

藁塚も屋根も伊吹の側に雪 多佳子