和歌と俳句

中村草田男

母郷行

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雪中梅この旅白くなりにけり

雪中梅一切忘じ一切見ゆ

冬杉円錐尖塔かくし人影なし

余生のみ永かりし人よ虎落笛

大人等を見捨てし一童復活祭

厭人の果ての祈りも咳混り

黒き地や身を降るの打ちつけに

杭一本降る条々かぎりなし

かなたになやむ行人こなたただ飛雪

飛雪のいぶき十七音詩ただ一息

ただに素顔の青流沿へり深雪道

深雪降らしていま憩ふ空月と星

たべ物の切口ならび夜の深雪

沈丁や医家の灯なれど書斎の灯

床低きショーウィンドウに冬日溜る

如月や値札ふかぶか豆の中

梅の下墓地いま水に渇したり

梅を愛せし友よ遺骨の在処知れず

白梅や墓地へ波うち米搗く音

なまぬるき蜜柑相噛み血族沙汰

城中ふかく在るかに林檎のハイライト

春の鳩舞ひ返せども飛び去るなり

古き鳥鳶もとまりて百千鳥

彼岸の雀よ他界想はで他界せしは

仔猫の斑夕月の斑とにほやかに