僧こもる菩薩嶺の雪また新た 蛇笏
軍需輸送の重き車両ぞ雪を被来 しづの女
畦しろく田にはつもらぬ雪積めり 悌二郎
雪とほく来たるおもひの眼つぶる 悌二郎
雪やまずものかそけきはあを菜畑 悌二郎
夜の鉄路乗りかへてより雪深き 多佳子
雪深くして厨房の音こもる 多佳子
雪を来て地階灯れり昼まばゆく 鷹女
雪を来て酸ゆき林檎を欲り食ふ 鷹女
降る雪にビルいつしかに灯を連らね 汀女
雪しげく何か家路の急がるる 汀女
巌頭や兎の如き雪一握 茅舎
熊笹の雪刎ねてバス駆け上る 茅舎
雪の中膏の如き泉かな 茅舎
雪の中金剛水を汲む乙女 茅舎
熔岩黒く雪はしづかに降りしづむ 波津女
汽車に寝ね雪降る船に寝て旅す 波津女
降る雪や父母の齢はさだかには 波郷
いちさきに孟宗ゆれて降る雪よ 石鼎
しんしんと降る雪見入りわがさだめ 石鼎
しんしんと降る雪を見て夕かな 石鼎
傘につみ土につむ雪の夕ながめ 石鼎
芝よりも土に雪つむ夕かな 石鼎
生けるもの声だにあらず雪きたる 悌二郎
地蔵岳たちまち雪を咲かせたり 悌二郎
瞳に古典紺々とふる牡丹雪 赤黄男
雪をきく瞳にくれなゐの葩を灯し 赤黄男
雪つもる夜は深海の魚となる 赤黄男
ちゝはゝを目に思ふ雪は胸に降り 友二
雪霏々と真昼の電車灯し来る 欣一
降る雪の十字架に翳が触れゆけり 欣一
おびたゞしき靴跡雪に印し征けり 欣一
竹の脚いよいよ細く雪霽るる 亞浪
雪敷きて海に近寄ることもなし 誓子
夜の雪遮二無二海の中へ降る 誓子
降る雪に胸飾られて捕へらる 不死男
捕へられ傘もささずよ眼に入る雪 不死男
帰り来て雪待つ心糧となし 欣一
雪凪いで鵞の泛く漣のくらみけり 蛇笏
隊列に雪ちる軍靴おとつよむ 蛇笏
天あをく枯無花果に雪こぼす 蛇笏
嶺々遠く雪の明暗大日和 蛇笏
雪の浜照りつつ午を過ぎにけり 誓子
雪ゆふべ手掴み洗ふ馬の蹄 誓子
降る雪にわが家の燈のみ道照らす 波津女
降る雪に客送らんと吾も濡る 波津女
降る雪にわが家の客の家遠し 波津女
金堂に雪くはしくも舞ふところ 青畝
ぐるりは塀獄にふつ雪限りなし 不死男
雪ふつて雑役囚の唇赤し 不死男
バスはやし街は粉雪の絵巻かな 知世子
雪舞ふや赤い鳥居を幾つ抜け 占魚
風に解け日にとけ雪の薄にごり 占魚
舞ふ雪の積むにはあらず昼の鐘 占魚
まともなる雀の顔や雪の朝 占魚
舟の上にわれを立たせて雪まんじ 占魚
はるかなるかな雪屋根に雲浮び 亞浪
雪片の高きより地に殺到す 誓子
積雪や汽車の燈の相別れゆく 誓子
爆音の真下濛濛と雪ふれり 楸邨
降りいでしうつぱり低き夜の雪 波郷
討伐隊まだかへりこぬ暮雪かな 波郷
笹の雪しばし揺れゐてはなれけり 占魚
ところどころ雪にかけたる畷かな 占魚
牡丹雪舟ゆく川の上といはず 占魚