かへりみて歩をうながしぬ冬木中
枯蓮の残る茎のみ如何とも
残りたる絮飛ばさんと枯薊
風吹きて鴛鴦いちやうに羽づくろひ
水鳥に投げてやる餌のなき子かな
掃いてある落葉の道がみちびきぬ
走り去る毬さびしけれ銀杏散る
寝ぬる子が青しといひし冬の月
閻王にたちふさがりて時雨傘
子等居ねば子を忘れをり懐手
夫と子をふつつり忘れ懐手
短日の暗き活字を子も讀める
遮断機はとくとく下ろす夜の枯木
氷上に捨てし氷に夕茜
マスクせし夫とものいひ年の市
咳聞え目覚めたる目をつむり居る
葉牡丹を街の霰にまかせ賣る
悴みし銅貨もれなくもらひたり
襟巻の厚き母とて子の転ぶ
降る雪にビルいつしかに灯を連らね
雪しげく何か家路の急がるる
童等のふつつり去りし夕落葉
足袋先の冷たさのみにかかはりて
目つむれば倖に似ぬ日向ぼこ
三十三才あとはばたばたと夕餉かな